★ふねしゅーの【旅】を極めるサイト★

タイトルロゴ



自転車世界一周の旅/第26話 ローマ~古の都より再出発


「なんてつまらない顔をしてるの。笑って、笑って」

 泊まっている安宿で、今朝起きしな管理人の若い女に言われた言葉が、心に刺さっていた。僕はまるで浮かない気分で、ローマの旧市街を歩いていた。

 ローマのシンボル、古代の競技場コロッセオの近くに、四枚の歴史地図が描かれた大きな壁画があった。都市国家ローマが、やがて地中海を制する大帝国へと成長していく歴史的変遷が、四枚の地図によって描かれていた。

イタリア/ローマ帝国の変遷を描いた歴史地図
【イタリア/ローマ帝国の変遷を描いた歴史地図】

 イタリア共和国
(Republic of Italy)

 ふと周りを見渡すと、道行く大勢の観光客が立ち止まり、そんなありきたりの歴史地図に見とれていた。指を差し、大きく手を振りながら、ああだこうだと歴史談義を交わしていた。この地を自分たちの起源であり歴史的故地だと考えるヨーロッパ人たちにとって、ローマは特別な場所なのだろう。

 いや、ヨーロッパ人たちだけではなかった。西洋文明に無邪気に憧れるアジア人たちもまた、ローマの旧跡を前にしてはしゃいでいた。群衆の中から聞こえてくる日本語を敏感に感じ取りながら、あえてそこから逃げるようにして、僕はコロッセオの前から歩き去った。

イタリア/フォロ・ロマーノ遺跡
【イタリア/フォロ・ロマーノ遺跡】

 コロッセオから少し歩いていくと、石柱が立ち並ぶフォロ・ロマーノ遺跡があった。二千年の歴史を誇るローマ帝国時代の遺跡だ。立派な凱旋門やら、神々を刻んだ石像やら、当時の貴族の居住跡などが残っていた。

 そんなローマの栄華を眺めながら、僕はつい数日前まで滞在していた中米のことを思い出した。ここローマの地に育った西洋文明は、やがて成長し、海を渡る。そしてアメリカ大陸に存在したアステカ・マヤ文明を、完膚なきまでに殲滅した。かつてアメリカ大陸の支配者だったインディヘナは、言葉を奪われ、宗教を奪われ、歴史を奪われ、今も社会の最下層で苦しんでいる。

 輝かんばかりの大遺跡の中に佇みながら、僕は滅ぼされた側の悲哀を自分の心に投影していた。

(つまらない顔? そりゃ、つまらない顔にもなるさ)

 僕は悪態をつき、遺跡の石ころを蹴っ飛ばした。からんころんと脳天気な音がした。とうに塞がったはずの頭の傷が、また疼いた。

イタリア/サン・ピエトロ広場
【イタリア/サン・ピエトロ広場】

*   *   *

 翌十月六日、僕は自転車屋を訪ねた。ローマの中心部から地下鉄で数駅行ったところで見つけた、小さな自転車屋だった。店舗はさほど広くはなかったが、品揃えは充実していた。機能的でお洒落な自転車が並んでいた。さすが自転車王国イタリアである。

 僕は一台の青いマウンテンバイクを選んだ。サスペンションなどはなく、フレーム形状もごくありふれた、しかし乗りやすそうな自転車だった。値段は四十五万リラ、約二万七千円だから初代よりぐっと安い。また盗まれてしまう可能性を考え、あまり高額なものは避けた。

 英語が堪能な店主は、突然来店し、完成車を買っていく日本人に少し怪訝そうだったが、さしたる質問を投げかけもせず、親切に保証システムや税金還付の方法などを教えてくれた。余計な詮索をされないことに、僕はほっとした。

 支払いを済ませ、調整が終わった新品の自転車を店の外に出し、ザックを荷台に載せた。走行中に落ちてしまわないようにバランスを考えつつ、ロープでぐるぐる巻きにして固定する。いくつかの小さな荷物や工具類は、やはり買ったばかりのフロントバッグに分けて積んだ。

イタリア/自転車屋で二台目を購入
【イタリア/自転車屋で二台目を購入】

(再出発だ)  僕は思った。ここはローマ。シルクロードの西の起点である。

(ここから東京まで走ろう)

 買ったばかりの自転車にまたがり、僕は静かにペダルをこぎ出した。快調にペダルは回った。地下鉄駅のあるロータリーを曲がると、緩やかな下り坂だった。

 自転車屋の店主は僕を見てどう思っただろうか。やっぱりつまらなそうに見えただろうか。それとも再出発の一歩に、少しは喜びのある生きた表情をしているだろうか。

イタリア/ローマ中心部
【イタリア/ローマ中心部】

 バスで回ることになった中米も、いつか良い経験になったと肯定できる日が来るかもしれない。この先また、地形や悪天候に泣かされ、自転車を選ばなきゃよかったと思うことも間違いなくあるだろう。

 僕は息を大きく吸った。交通量の多いローマの道。荷物満載の自転車に乗った東洋人を見て、ふっと視線を寄越す人はいるが、声をかけてきたり、大袈裟に驚くようなそぶりを見せる人はいない。

 静かな再出発。でも、それでいいのだ。

 僕は息を吐いた。ペダルを踏む脚に力を込めた。

イタリア/コロッセオ前にて
【イタリア/コロッセオ前にて】

出発から6941キロ(40000キロまで、あと34059キロ)

できごと 距離
2001 05 26 アメリカ 旅立ち 空路アラスカへ
22 船にてアメリカ本土上陸
20 メキシコ 自転車にて入国(ティファナ)
08 05 トゥーラ手前
5000
24 チチェンイツァ先
6000
29 ベリーズ 自転車にて入国(オレンジ・ウオーク)
09 02 グアテマラ 自転車にて入国(サンタ・エレーナ)
04 強盗事件発生 自転車を失う
6940
18 エルサルバドル バスにて入国(サンサルバドル)
20 ホンジュラス バスにて入国(コパンルイナス)
24 ニカラグア バスにて入国(マナグア)
26 コスタリカ バスにて入国(サンホセ)
30 パナマ バスにて入国(パナマシティ)
10 03 出国 空路大西洋を越える
04 イタリア 飛行機にて入国(ローマ)
05 二台目の自転車を購入、再出発

第25話 パナマ~憎らしいほど青い海 <<

>> 第27話 地中海の潮風を受けて、ドイツ人チャリダーと走る



たびえもん

旅のチカラでみんなの夢をかなえる会社です

TEL:03-6914-8575
10時~17時半(日祝休)
https://tabiiku.org/

たびえもんロゴ

お問い合わせや旅行のご相談は、(株)たびえもんのサイトにて受付いたします。

素顔ジャパンプロジェクト

いつまでマスク? なぜ顔を隠し続けるの? みんなの笑顔が見える社会を取り戻そう

海外旅行で子供は育つ!

↓本を出しました↓

★全国の書店で、発売中★