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自転車世界一周の旅/第105話 聖河ガンジス~旅を失った漂流者たち


 聖河ガンジスが流れる町、バラナシ。僕は久美子ハウスの屋上でぼんやりとガンジスの流れを眺めていた。

 ヒマラヤに源を発し、川そのものが神格化されたガンガー。そのガンガーがひときわ鋭く湾曲し、エネルギーをたぎらせている場所が、ヒンドゥ教徒にとっての最高聖地、バラナシだった。

 川のこちら側はこの世である。四角い箱形の建物がおびただしく建ち並んでいた。川岸には何隻もの小舟が係留されていた。川に浮かんでいる舟もあった。観光客を乗せた舟もあれば、火葬された死体を流している葬儀の舟もあった。インド人も、外国人旅行者も、聖なる牛たちも、みな流れに誘われるようにして此岸にやって来る。

 川の向こう側はあの世である。川向こうの岸辺には何もない。ただ草が生い茂っているだけの原。たまに小舟が漂着していたが、ただ一つの建物もない。本当にぞっとするほど何もない。川のこちら側と向こう側で、その光景は歴然と異なる。これぞ彼岸である。

 インド
(India)

インド/エレファンタ島の石窟寺院
【インド/エレファンタ島の石窟寺院】

インド/エレファンタ島の船着場
【インド/エレファンタ島の船着場】

 僕はムンバイで、日本人の若い二人組と出会った。彼らはゴアから来て、このあと夜行列車でバラナシに向かうと言った。自転車などという余計な荷物を持たず、気軽に列車を乗り継いでいく旅が、このときは無性に羨ましく思えた。

 大都会ムンバイで自転車を直すのは難しいことではない。しかし、自転車旅行に飽いた自分の気概を取り戻すのは簡単ではなかった。彼らと共にバラナシに移動し、そこで自転車を置きっぱなしにして、しばらく列車とバスでインドを回ろうか。

 そんなことを考えた。いったん思い始めると、その考えは止まらなかった。

インド/ムンバイ、タージマハルホテル
【インド/ムンバイ、タージマハルホテル】

インド/ムンバイ、セントラル駅
【インド/ムンバイ、セントラル駅】

インド/鉄道でムンバイからバラナシへ
【インド/鉄道でムンバイからバラナシへ】

「まさに三途の川ですよね」

 イマイくんが言った。屋上の手すりにもたれ、やはりガンガーを見やっていた。イマイくんとはこの宿で出会ったばかりだったが、日本での縁があった。以前僕が勤めていた会社に、彼もやはり勤めていたのだ。働いている時期も支店も別々だったので面識はなかったが、共通の知人がいた。

 旅に出ていると、日本のことが懐かしくなる。痛勤電車に揺られ、残業の日々だったことすらが懐かしくなる。当時は嫌で嫌で仕方がなく、いつか長い旅に出たい、そうに思っていたはずのことを忘れて、あらゆることが懐かしくなってくる。

(僕は日本に帰りたいのだろうか)

 ガンガーを眺めている自分に、僕はやるせなさを感じていた。敗北感があった。

 久美子ハウスは、日本人のクミコさんとインド人のシャンティさん夫妻が経営する、日本人バックパッカー界では広く知られた宿だった。嘘か誠か、長渕剛や麻原彰晃が泊まったこともあるという伝説があった。

インド/聖なる河ガンガーを眺めて
【インド/聖なる河ガンガーを眺めて】

 そして、日本人ばかりおよそ二十人が沈没する大部屋は、常に煙が充満していた。僕は衝撃を受けた。インドやネパールの民族衣装を着込み、髪を伸ばしてドレッドを編み込んだ男たちが、チュラムと呼ばれる円筒形のパイプを回して吸っていた。それも夜ではなく、朝っぱらから吸っていた。

 彼らが吸っているものは、もちろんガンジャでありハシシであった。いや、それだけではなく、話を聞けば、よりやばいとされるクスリにも手を出しているようだった。

「さすがにどうかと思いますけどね。これじゃ普通の旅行者は避けますよ」

 イマイくんが顔をしかめていたが、僕も同感だった。たとえばラホールでも、ガンジャをたしなむ旅行者は少なからずいた。ヒロくんやユースケくんたちはアフガンゴールドを楽しんでいた。一緒にいれば僕も勧められた。しかし彼らはまだ旅人だった。旅を主目的とし、その傍らで遊んでいた。ガンジャを吸いながらも旅の話をしていた。僕のアフリカ話を聞きたがった。

インド/伝説の宿久美子ハウス
【インド/伝説の宿久美子ハウス】

 久美子ハウスの大部屋で滞留している彼らは、どうやらガンジャを目的にインドまで来ているようだった。チュラムを口にしながら、話題もまた、どこのクスリがいいかといった話だった。「クサ」とか「カミ」とか「チョコ」などという隠語が飛び交っていた。

 もはや旅人ではない。僕はそう思った。

 酒を飲んで「酔う」というように、麻薬をやっておかしくなることを「キまる」といった。「キまった」人間の顔を見るのは、たとえば南アフリカのスラムなど、これまでに何度も経験があったが、いっそう危険な顔をしているやつがいた。目がとろんとして、焦点が定まらず、恍惚としていた。ムンバイから一緒に来た二人組の片割れだった。彼は、今度はタイのパンガンに行きたいと言っていた。詳しくは知らなかったが、麻薬パーティーで有名なビーチであるらしかった。

「まじ、ヘ※インやったの?」

「ヘ※インはやばいって」

 そんな会話が聞こえた。

出発から26593キロ(40000キロまで、あと13407キロ)

できごと 距離
2001 05 26 アメリカ 旅立ち 空路アラスカへ
08 05 メキシコ トゥーラ手前
5000
11 11 トルコ イスタンブール手前
10000
2002 04 10 ジンバブエ ビクトリアフォールズ先
15000
05 26 トルコ 旅立ち1周年 南アフリカから飛行機にて入国
07 20 アジア全走行を目指し、55日ぶりにイスタンブール発
08 10 イラン マクー~マルカンラル間
20000
19 アーベイェク市内
21000
09 06 ヤズド~メフリーズ間
22000
16 パキスタン 自転車にて入国(クイ・タフタン)
17 クイ・タフタン先
23000
27 デラ・アラー・ヤル付近
24000
10 07 ラホール到着
19 ワガ国境
25000
19 インド 自転車にて入国(アムリトサル)
25 デリー到着
11 03 プシュカル先
26000
09 ムンバイ行きの夜行列車で自転車が壊される

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