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自転車世界一周の旅/第14話 メキシコシティ~日本人宿ペンションアミーゴ


 シウダー・デ・メヒコ。スペイン語ではメキシコシティのことをこう呼ぶ。人口二千万人を数える世界最大の都市の一つだ。かつてアステカ帝国の首都が置かれていた町でもあり、八月六日に着いた僕は、最低でも一週間はのんびりと滞在するつもりでいた。

 僕が泊まったのは、日本人宿のペンションアミーゴ。日本人宿というのは日本人旅行者が多く集まる宿のことで、ペンションアミーゴに関しては、原則日本人限定の宿だった。日本人の夫の跡を継いで、今はメキシコ人の妻が経営していた。

 メキシコ合衆国
(United Mexican States)
メキシコ/メキシコシティ新市街
【メキシコ/メキシコシティ新市街】
 日の丸が描かれた黒い門扉を開けると、まず広い中庭があった。中庭を取り囲むようにコの字型に建物が配置され、正面に食堂や台所、読書室といった共有の空間があった。左手は経営家族の住居であり、二階と三階が宿泊者の部屋となっていた。

 宿泊者は十数名。そのうち何名かは長期の滞在者であり、居住者だった。ここでプロレスラーをしているという人、サッカーリーグに所属してサッカーをしているという人、あるいは旅行会社で日本人相手のツアーガイドをしている人などがいた。

 旅行者は出入りがあったが、そのうちの何人かと親しくなった。メキシコに三年住んでいたことがあるといい、スペイン語がペラペラの頼れる眼鏡姿のニイさん(兄さんという意味でついたあだ名)。これから南米へ下る予定だという日焼け大好きで色黒のカヨさん。逆にボリビアやチリなど南米を回ってきたという元看護婦のユウコさん。二週間の短期旅行だという中学教師のユキコさん。そしてティファナからラパスまで一緒だったエリコさんとも再会した。中南米の旅人は年長者が多く、僕は二十七にして年下だった。

メキシコ/日本人宿ペンションアミーゴ
【メキシコ/日本人宿ペンションアミーゴ】

 アミーゴでは台所が自由に使えた。僕たちは近所のスーパーに出かけ、肉や野菜を買ってきて自炊をした。読書室はとても充実しており、日本語の漫画、雑誌、文庫本、それにビデオも揃っていた。インターネットも可能だった。

 情報ノートもあった。情報ノートというのは宿に置いてある書き込み自由な雑記帳のことで、どこそこの食堂が安くて美味しいとか、あの町に行くならこの宿に泊まるといいとか、そんな生の旅情報が集まっていた。直接旅とは関係ない、旅人たちのしがない雑感のような書き込みもあって、それもまた読み物として面白かった。

 海外でこういうところがあるのだなと、僕はとてもびっくりした。同時に日本を出て二ヶ月あまり、少しほっとした気分になった。

 郊外のテオティワカン遺跡を訪れたり、隣国ベリーズのビザを申請したりして、メキシコシティの日々はゆっくりと過ぎていった。

メキシコ/テオティワカン遺跡
【メキシコ/テオティワカン遺跡】

メキシコ/メキシコ五輪スタジアム
【メキシコ/メキシコ五輪スタジアム】

*   *   *

 滞在四日目、ニイさんに誘われて、彼がかつてホームステイをしていたというメキシコ人医師のお宅にお邪魔したこともあった。地下鉄を乗り継ぎ訪れたお宅は、メキシコ人の中では上流の家庭なのだろう。立派な車庫があり、階段を上った二階に広いリビングがあった。中高生の子供たちまで総出で、おまけの僕たちまで大歓迎を受けた。

 牛の胃袋のスープやサボテンの葉と唐辛子、タマネギの和え物という家庭料理の数々を、僕たちは御馳走になった。

 メキシコの主食はトルティージャ。トウモロコシの粉を練って円形にしたもので、肉や野菜を挟んで巻いたものがタコスになるのだが、トルティージャだけをそのまま食べても美味しかった。

「昔地理の授業で、トウモロコシが主食の国があるってのが不思議でならなかったけど、こういうことだったんですね」

 黄色い粒々の野菜が主食になるというのが、僕は今までどうにも腑に落ちなかったのだが、メキシコに来てその疑問が氷解していた。

メキシコ/医師宅でご馳走に
【メキシコ/医師宅でご馳走に】

 メスカルと呼ばれる地酒もいただいた。ビンの底に芋虫が入れられた蒸留酒だ。

「サルー!」

 メキシコ式の乾杯である。

 風邪のため禁酒令を言い渡されたユウコさんは、匂いを嗅ぐことしか許されず、目に涙を浮かべるほどに悔しがっていた。また、ペンションアミーゴの古ぼけたベッドのせいなのか、虫刺されに悩まされていて診察を受けたカヨさんは、「首筋に虫が歩いた道がある」と告げられ、これまたひどく落ち込んでいた。

 自転車で旅をしていると話した僕は、家族から「カブロン」というあだ名を貰った。カブロンというのはとんでもない奴、すごい奴という意味らしく、かつてテレビ番組で、やはり自転車でメキシコを縦断しようとするアメリカ人の若者が取り上げられ、カブロンと呼ばれ、各地で歓迎されていたらしい。お前もテレビに売り込むといい、絶対そうすべきだよ、と笑顔で勧められた。

メキシコ/メキシコ国立自治大学
【メキシコ/メキシコ国立自治大学】

出発から5173キロ(40000キロまで、あと34827キロ)

できごと 距離
2001 05 26 日本 旅立ち 空路アラスカへ
27 アメリカ アンカレジにて自転車購入
0
06 05 フェアバンクス~デルタジャンクション間
1000
07 カナダ 自転車にて入国(ビーバークリーク)
14 アメリカ 自転車にて再入国(スキャグウェイ)
18 ジュノー市内
2000
22 船にてアメリカ本土上陸
07 01 ベア湖~ローガン間
3000
16 サンタモニカ手前
4000
20 メキシコ 自転車にて入国(ティファナ)
08 05 トゥーラ手前
5000
06 メキシコシティ到着

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