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韓国で仏教再興の契機になるか 観光公社が「33観音巡礼」を企画



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 韓国観光公社が新たな観光誘致策として、仏教聖地巡りを企画している。

「韓の国・三十三観音聖地」と銘打ち、韓国国内の名刹33カ所を選定、巡礼観光として主に日本人向けに売り出す予定らしい。日本では四国の88カ所巡りが有名だが、さしずめその韓国版といったところか。寺の由来や伝統文化を解説する専任先達の資格を設け、ご朱印帳を用意、寺院での宿泊も可能にするなど、観光面での整備を進めていると報道されている。(参考:4月28日付西日本新聞朝刊)

 私はユネスコの世界遺産にも登録されている古都慶州の佛国寺など、韓国のお寺もいくつか訪ねたことがあるが、日本の寺院より色彩感があり、とはいえ東南アジアのそれのように派手さなく、また異なる味わいが印象に残っている。

 韓国は、インドから中国を経て伝来した仏教を、さらに日本へ伝えた国でもある。近代的な都会のソウルや釜山だけではない、韓国の田舎と歴史を巡る旅として、相応の人気が出るのではないだろうか。

 と、ここまでは前置きである。

 私がこのニュースに注目したのは、そもそも日本人対象に考案されたというこの仏教寺院巡礼の旅が、今後地元の韓国人に、どのように受け入れられていくだろうかという点である。

 昨年のアフガニスタンでの人質事件をきっかけに広く知られるようになったことだが、現在、韓国ではキリスト教会が非常に強い力を持っている。

 韓国は歴史的には仏教・儒教の文化圏に属するが、第2次大戦後、急速にキリスト教が広まり、今や人口のおよそ4人に1人はキリスト教徒であるといわれている。この比率は、アジアでは、スペインとアメリカの植民地だったフィリピンに次いで多く、実際に韓国を訪れると、建物の屋根を飾る十字架の多さに驚かされる。

 なぜ韓国において、そこまでキリスト教が拡大したのかはさておき、統計によっては、キリスト教徒より少なくなってしまったともいわれる仏教徒は、このまま減る一方なのだろうか。

 もちろん個人として信教の自由はある。しかし、その国あるいは民族の歴史にとって、宗教は重要な文化的基盤である。これを棄てることは歴史を失うことでもある。

 韓国では1980年代から90年代にかけて、キリスト教勢力による寺院や仏像、仏画の破壊も多かったという。(日本では明治時代に廃仏毀釈運動があり、朝鮮半島でも李氏朝鮮時代に儒教が国教とされ、仏教は弾圧された過去がある。ときに非情な出来事を含めて、歴史という見方もある。参考:ウィキペディア英語版)

 韓国観光公社の関係者によると、韓国には元来、巡礼文化がないものの、宗教観光を通じて日韓両国の相互理解を深め、韓国内でも新しい旅のスタイルとして提案していきたいとのこと。

 観光は、単なる娯楽にとどまらず、地域の文化や歴史に価値を与えるものである。なぜなら旅行者は、その土地の固有の文化(郷土料理や、民芸品や、お祭りなど)に触れたくてやって来るのだ。当然迎える側、地元の人々の意識も変わる。

 私は以前カンボジアのアンコールトム遺跡を訪れた際、小学生くらいの少年2人組のガイドに出会ったことがある。ひとりで気ままに見て回りたかった私についてきて、勝手に解説を始めるのだ。

 初めは、最後にお金をせびられるのだろうと面倒な気持ちがあったのだが、英語に片言の日本語を織り交ぜて、遺跡の成り立ちや、仏像など彫刻類が意味する文化的背景など、予想以上にしっかりした説明で、感心した。

 きっと彼らは、このようなガイド商売をすることを通じて、自国の伝統を学び、これを誇りに思うようになるだろう。もう10年近く前のことだから、あるいは今頃は地元の旅行会社かホテルに勤め、クメール文化を発信し続けているのかもしれない。

 三十三観音聖地が韓国の人気観光ルートとして根付いたとき、それは単に日本人が観光に来てお金を落としていくだけではなく、韓国仏教に自信を与え、人々が長い歴史に培われたその価値を再認識するきっかけとなるに違いない。

(2008年5月12日掲載)

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