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韓国と台湾の真剣勝負〜野球・アジアシリーズ

 サムスンライオンズ対ラニューベアーズの試合を観戦した




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 アジア野球リーグの最高峰の大会と位置付けられ、昨年始まったアジアシリーズ。今年も日本、韓国、台湾、中国の4カ国の国内リーグを制した4球団(中国は選抜)が一堂に会し、国の代表としての威信をかけて戦った。参加球団は北海道日本ハムファイターズ(本拠地は札幌)、サムスンライオンズ(同大邱)、ラニューベアーズ(同高雄)、およびチャイナスターズ。舞台は東京ドームである。

 11月11日、韓国代表サムスンと台湾代表ラニューの試合を観戦した。

 日本代表の日本ハムがいち早く決勝進出を決めていたため、勝ったほうが挑戦権獲得、負けたほうはシリーズ敗退が決まるという瀬戸際の一戦。国際試合独特の雰囲気が、球場に足を踏み入れた瞬間から肌で感じられた。観客の声、場内のアナウンス、場内の案内表示、いずれもが日本語、英語、韓国語、中国語の入り混じった多言語の世界。試合に先立っては開会式が行われ、1人1人名前を呼ばれて登場する選手たちに、それぞれの国の応援団から大きな拍手と歓声があがっていた。

 公式発表によると観客数は6445人、外野席は無人であり、内野にも空席が目立った。しかし、通常の公式戦とは異なる緊張感と高揚感があった。韓国や台湾から来たファンのほかに、日本人の観客も多く、その中には日本ハムのユニフォームを着たファンもいた。おそらく札幌から来たファンも少なくないのだろう。アジアシリーズが国同士の戦いであると同時に、本拠地を代表したチーム同士の戦いであることを感じさせた。

両軍選手が並んでの試合前の式典
【両軍選手が並んでの試合前の式典 】
試合風景(1回表サムスンライオンズの攻撃)
【試合風景(1回表サムスンライオンズの攻撃)】

 試合はサムスンが元広島のブラウン、ラニューが呉偲佑(ウ・スヨ)の先発、初回にサムスンが満塁の好機を逃し、3回までは互いに得点なしの投手戦が続いた。

 先制したのは実力に上回ると言われ、昨年もこの大会に出場し準優勝しているサムスン。4回表、通算300本塁打を達成した梁※赫(ヤン・ジュンヒョク、※は俊のニンベンを土へんに)が2点本塁打を放つと、3塁側のサムスン応援団は大歓声、青と白の風船バットが激しく揺れた。応援の派手さで知られるサムスン応援席の最前列では、イニングの交替ごとに、マスコットのライオンと共に4人組のチアリーダーが踊り、スタンドを大いに盛り上げていた。

 しかし暴力熊の異名をとるラニューも負けてはいない。4回裏、連打を重ねて得たチャンスにドジャース帰りの陳金鋒(チェン・ジンフェン)が見事な2塁打、たちまち同点に追いついた。さらに6回、WBCにも出場した林智勝(リン・ジシェン)が特大のアーチを無人の左翼席上部の壁に叩き付け、1塁側スタンドは歓喜の渦に包まれた。メガホンが揺れ、旗が振られ、抱き合うファンもいる。まるで優勝が決まったかのような大騒ぎとなった。

韓国側サムスンの応援団
【韓国側サムスンの応援団】
勝ち越し本塁打に歓喜する台湾側ラニューの応援席
【勝ち越し本塁打に歓喜する台湾側ラニューの応援席】

「ビールいかがぁすかぁ」「お弁当いかがぁすかぁ」と連呼する売り子たち姿はない。代わりに日本とは異なる両チームの応援の熱気があった。韓国に3度、台湾には2度訪れたことのある私は、特にどちらのチームに肩入れするわけでもなく、コウモリのように両方の応援席を行き来しては互いの応援風景を楽しんでいたのだが、そうすることが申し訳なく思えるくらいに、力のこもった応援合戦だった。自分の贔屓球団の勝利が見たくて、わざわざ海を越えてやって来た野球ファンの心を感じた。

 追いすがるサムスンは毎回のように走者を出すが、あと1本が出ない。WBCで日本の前に立ちはだかった抑えの切り札呉昇桓(オ・スンファン)を投入し、最後の反撃に賭ける。ついに9回表、サムスンはヒットのランナーを2塁に進め1打同点のチャンス、3塁側スタンドは総立ちで必死の応援となるが、阪神にも在籍していたモレイがなんとか最後を締め、3対2でラニューが勝利した。

 その瞬間、ラニューベアーズは、ベンチの選手もみなグランドに飛び出した。サヨナラ勝ちのような光景であり、「観光に来たわけではない」と語った洪一中(ホン・イジョン)監督の言葉通りの選手の喜び方だった。ややあって勝利者インタビュー、決勝の本塁打を打った林(リン)に対して、若い女性ファンから「愛してる!」と黄色い声が飛んでいた。チャイニーズタイペイとしての五輪の旗ではなく、台湾国旗が無数にはためいていた。

 アジアシリーズの公式ホームページには次のように書かれている。

「アジアチャンピオンになることが、選手、チーム関係者、ファンの目標となり、名誉をかけた真剣勝負が大会を盛り上げ、将来的な『クラブ世界一決定戦』の実現に向けた大きなうねりとなることが期待されます」

 アジアシリーズは日本シリーズなどに比べ、マスコミの扱いは小さく、まだまだ注目度は低いかもしれないが、紛れもなく真剣勝負の国際試合である。当初は決勝を観たいと考えていたのだが、むしろ韓国と台湾という日本以外の2カ国の野球を目にしたことで、アジア野球の裾野の広さと、将来的な発展性を感じることができた。

 いずれ日本代表が敗北を喫する日や、中国代表が選抜チームではなく単独の代表チームとしてやって来る日が来るだろう。そしてアジアシリーズの勝者が大平洋を越え、メジャーの優勝チームと戦うことのできる日が遠からず来るかもしれない。

 一野球ファンとして、今後が大いに楽しみである。
(2006年11月14日掲載)

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