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秋の宮城路サイクリング  仙台市街から定義如来まで〜素朴な秋を感じる小さな旅



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 秋深まる東北・宮城を自転車で訪れた。学生時代に所属したサイクリング部の記念行事に参加するためだ。

 晴天に恵まれた仙台、広瀬川の河原一面が、芋煮会を楽しむ人々のシートやテントで埋め尽くされていた。

 芋煮会とは、山形および宮城両県以外の人にはなじみが薄いかもしれないが、河原に鍋を持ち込み芋や肉を煮る、東北版秋のバーベキューのような行事である。

 広瀬川に架かる橋を渡り、川沿いの国道48号を西へ進むと、まもなく東北自動車道の高架をくぐる。県道55号定義(じょうぎ)線に進むと、のどかな田舎の風景に突入する。仙台が政令指定都市に移行する合併以前は、宮城町と呼ばれた地域であり、広瀬川を中心とした河岸段丘の両側に山林が広がる。東京と異なり、たとえ自転車でも、少し走れば山が近いというのが、仙台ほどの大きさの町の魅力だ。

 旧宮城町の中心は愛子(あやし)と呼ばれるのだが、ややあって前方に見慣れぬ大仏が登場した。後輩に尋ねると、数年前に突如出現したらしい。不思議に思いつつ、立札を読んで納得した。

 『愛子大佛』

 その名前の縁にあやかり、天皇家に愛子様が誕生した記念に建立されたとのこと。JR仙山線には同名の駅もあるが、当時は記念の入場券がよく売れたという。大仏は高台の展望所に位置し、広瀬川沿いの田畑や集落の眺めが良かった。

県道沿いの愛子大佛
【県道沿いの愛子大佛】
大倉ダム沿いの道
【大倉ダム沿いの道】

 愛子大仏を過ぎてから道はアップダウンがきつくなり、運動不足の身には応えるが、空気は冷涼で日差しも優しく気持ちがいい。私の所属した部では4月の新入生歓迎行事で走るコースなのだが、交通量も少なめで、女性を含めた初心者が手軽に楽しめる道のりだ。

 仙台市民の水がめ大倉ダムを過ぎ、最後の坂道に苦しむと、まもなく目的地の定義に着く。

 平重盛の重臣平貞能が、壇ノ浦の戦いに敗れたのちにこの地に流れ、重盛に賜った阿弥陀如来の宝軸を納めたことに由来する定義如来。天気のいい週末とあって多くの参拝客で賑わい、緑の山並みを背景に五重の塔が映えていた。長い歴史を経て、地域の信仰に支えられた寺社には、風景に溶け込んだ趣がある。

定義如来の五重塔
【定義如来の五重塔】

 定義の名物はなんと言ってもアブラゲ。大きな三角形の熱々の油揚げが100円。醤油と七味をお好みでかけて頬張れば、足の疲れも癒えていった。

 自転車の魅力は、なんといってもその速度の妙にある。車では一瞬で通過してしまう景色を、文字通りじっくりと体感できる。かといって徒歩ほど遅いわけではない。仙台市街から定義までは25キロほどの道のりがあるが、ゆっくり休憩を含めても2、3時間あれば走ることができる。意外な機動力もまた自転車の大きな強みだ。さらに足を延ばせば、仙台の奥座敷作並(さくなみ)温泉も近い。

 なお、定義へは仙台駅から直通のバス路線もあり、駐車場も完備されている。自転車は無理だという方も含めて、素朴な秋を感じに出かけてみてはいかがだろうか。
(2006年10月31日掲載)

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