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安産の神様、水天宮を訪ねて  時代移っても変わらぬ心を次世代へ



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 汗ばむ秋晴れの9月3日、安産の神様として知られる東京都中央区の水天宮を訪れた。

 地下鉄の水天宮前駅を降りると、都心のビルに囲まれて、こぢんまりとした緑の一角がある。石段を上ると境内に出る。産着などを売る屋台が数軒並び、大勢の妊婦さんとその付き添いの人であふれていた。これからお兄ちゃんお姉ちゃんとなる幼児の姿も多く、少子化は本当だろうかと疑ってしまう。

 安産祈願は妊娠5カ月目の戌の日に行うのが習わしとされている。この日は戌の日ではなかったが、大安の日曜日とありいつもに増して人が多いと屋台の男性が笑っていた。

都心に建つ水天宮(東京都中央区)
【都心に建つ水天宮(東京都中央区)】

 腹帯の販売や祈祷の受け付けは長蛇の列。巫女さんが6人で対応していたが、待ち時間はおよそ30分。受け付けをした人全員に妊婦さんバッヂを配布していた。臨月近くなればともかく、妊娠中期頃まではさほどお腹も目立たない。優先席などでさりげなく譲られるようにしようと鉄道各社の駅でも配っているものだ。実際に車内でこれを付けている女性を見かけたことはあまりなく、敢えて付けるのもなんだかと妻は苦笑いしていたが、社会全体で妊娠および子育てを見守るという流れは大事にしたい。

 普段は30分ごとという祈祷が、この日は混雑のため15分刻み。1回あたり10数人が並び、まとめて神主さんから御払いを受ける。形骸的であり商業的であると、このような祭事を否定する人もいるだろうが、都心の喧騒の中で、ひとときの静謐さがあった。

 江戸時代から庶民の信仰心に支えられ、幾千万のお産を見守ってきたであろう水天宮。現在社殿は鉄筋コンクリート造りで地下には駐車場があり、車椅子用のエレベーターも据え付けられたバリアフリーな神社だ。料金等の情報は水天宮のホームページで手軽に入手できる。

 古式然とした歴史遺産としての寺社が持つ味わい深さにはかなわないが、祖先からの伝統を受け継ぎつつ、現代流に改良されたあり方であるともいえる。むしろその手軽さが若い活気を生んでいた。

 どんなに科学が進んでも、人の生き死にだけは管轄外だ。少子化が叫ばれ、また子供が犯罪に巻き込まれる嫌な事件が多い昨今だからこそ、命の大切さを考え、人間の力ではどうにもならない部分を、祈る。時代が移っても変わらない心を、お腹の中の次世代にも伝えていきたい。
(2006年9月8日掲載)

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