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自転車世界一周の旅/第123話 神々の白嶺~アンナプルナに抱かれて


 標高二千メートルを超えると、道端に雪が目立ち始めた。曇天。やがて雪が舞い始めた。

 ネパール王国
(Kingdom of Nepal)

ネパール/標高三千メートルへ
【ネパール/標高三千メートルへ】

ネパール/下山途中
【ネパール/下山途中】

 ときおり上から下ってくる登山客とすれ違った。アンナプルナベースキャンプ(ABC)は雪のため閉鎖されてしまっているという話を聞いた。

 吹雪の中、それでも僕たちはひたすら上を目指した。途中ヒマラヤホテルの宿で出会った韓国人のおじさんと一緒だった。視界は効かないが、道筋ははっきりとしており、迷う心配はなかった。カトマンズで買ったばかりの真新しい合羽も充分に威力を発揮した。とりたてて寒さは感じなかった。

ネパール/デオラリの山小屋
【ネパール/デオラリの山小屋】

 三千メートルを過ぎると、さすがに息があがってきた。一歩一歩がきつく、しかも雪が積もって滑りやすかった。これ以上の標高は僕にとっては未体験の世界。ナベくんもそうだと言った。悪天候や純粋な疲労以外に、高山病という見えない敵もあった。

 しかし、不思議と身体は動いた。

 前方に小屋が現れた。雪の白さで霞んだ視界の正面、その姿は唐突に、すぐ目の前に現れた。マチャプチャレベースキャンプ(MBC)の小屋だった。小屋の中には、十数人の登山客が集まり、掘り炬燵で暖をとっていた。部屋全体の暖房はなく、掘り炬燵の中で石油ストーブが焚かれていた。室内なのに氷点下の寒さ。みな重装備の上着を着込んだまま、足を炬燵の中に入れ、静かに談笑していた。

ネパール/日の出に輝く白嶺
【ネパール/日の出に輝く白嶺】

 僕たち日本人と韓国人のほか、ニュージーランド人、フランス人、南アフリカ人など、様々な国籍の登山客が集まっていた。彼らの何人かは、今日ABCに向かおうと挑んだが、腰まで積もった雪に断念し、途中で引き返してきたという。噂どおりABCの小屋は閉鎖されており、営業しているのはこのMBCまでなのだ。夕方になって雪は止んだ。外に出てみると、徐々に天候は回復しているのか、うっすらと遠くの岩肌が見えた。

 将来の話になった。実家がお寺であるナベくんは、日本に帰ったら仏教系の大学院に進み、またチベットに行ってチベット仏教を学ぶつもりだと話した。

 日本に帰国したかつての旅仲間たち、そのうち何人かはまじめに仕事を探し、また何人かは次なる旅の計画を練っているようだった。(自分はどうしよう。あと半年後には、そろそろ帰国しているはずだ)僕は漠然と考え、口にもしたが、答は出ない。今はまだ、この旅に全力を注ぐだけ。そう思った。

*   *   *

 翌日、早朝六時。僕はこっそりと起き出し、小屋の外に出た。まだ暗い漆黒の空。逆さの北斗七星や、地平から昇らんとする蠍座の姿が見えた。晴れていた。

 やがて空はゆっくりと青み始める。東側に切り立つマチャプチャレ(六九九三メートル)に遮られ、太陽は当分その姿を見せない。西側を見やると、黒い岩肌の向こうに、真っ白に浮かぶアンナプルナサウス(七二一九メートル)の氷塊がそびえていた。寒さを忘れ、我を忘れ、ただぼんやりと眺めているその間にも、空の色は刻々と変化し、いつのまにか星は見えなくなっていた。

 朝食を終え、僕とナベくんは、韓国人のおじさんたちと四人でABCを目指した。

ネパール/アンナプルナ内院
【ネパール/アンナプルナ内院】

 空は快晴。日はまだ昇っておらず、空は深い青に染められていた。行く手には真っ白な雪の丘が立ち塞がっていた。昨日の西洋人たちが残したものだろうか、膝まで埋まる深さで足跡が続いていた。滑って滑って登りづらい雪の丘をいくつも越え、薄い空気に繰り返し息を弾ませ小休息をとりながら、僕たちは進んだ。もう富士山の標高は超えたはずだ。

 そしてさらに一つ丘を越えると、三六〇度の眺望が広がった。西洋人たちの足跡はそこで途絶えていた。

 正面にアンナプルナサウスが見えた。背面にいまだ太陽を隠す鋭角なマチャプチャレが見えた。右手にはアンナプルナ第三峰(七五五三メートル)やテントピーク(五六六三メートル)などの諸峰が連なっていた。そして右手最奥に、総大将のアンナプルナ主峰(八〇九一メートル)が、やや控えめに、右尾根を手前の山に隠してそびえていた。

 午前八時を回って、日の出があった。あたりが急速に明るく、白く輝き始めた。

ネパール/アンナプルナ主峰
【ネパール/アンナプルナ主峰】

(なんて暖かいんだ)

 陽光を受けて、僕はただその場所に茫然と立ち尽くした。ひたすら気持ちがよかった。

ネパール/アンナプルナ内院
【ネパール/アンナプルナ内院】

ネパール/アンナプルナ内院
【ネパール/アンナプルナ内院】

 太陽……天空を支配する大いなる神。しかし砂漠の太陽と、雪山の太陽は違う。ゆっくりと薄い雲が上空を流れていた。太陽の光を受けて、周囲の山々も一段と雪化粧が綺麗だった。

 太陽が神なのか、それとも山々が神なのか。あるいはこの世の総てが神なのか。アンナプルナ内院。英語ではアンナプルナサンクチュアリと呼ばれる。まさにそこは、人智を超えた神々の棲まう聖域だった。

ネパール/登山基地ポカラの町
【ネパール/登山基地ポカラの町】

ネパール/ポカラから南へ
【ネパール/ポカラから南へ】

出発から27906キロ(40000キロまで、あと12094キロ)

できごと 距離
2001 05 26 アメリカ 旅立ち 空路アラスカへ
08 05 メキシコ トゥーラ手前
5000
11 11 トルコ イスタンブール手前
10000
2002 04 10 ジンバブエ ビクトリアフォールズ先
15000
05 26 トルコ 旅立ち1周年 南アフリカから飛行機にて入国
07 20 アジア全走行を目指し、55日ぶりにイスタンブール発
08 10 イラン マクー~マルカンラル間
20000
10 19 パキスタン ワガ国境を越えて、インド入国
25000
25 デリー到着
11 03 プシュカル先
26000
09 ムンバイ行きの夜行列車で自転車が壊される
12 03 スリランカ 飛行機にて入国(コロンボ)
19 インド 飛行機にて再入国(チェンナイ)
2003 01 01 バラナシにて年越し
04 ブッダガヤに到着
16 ナーランダ付近
27000
21 ネパール 自転車にて入国(ビールガンジ)
24 カトマンズ到着
02 15 アンナプルナ内院、標高4000メートルに到達

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