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自転車世界一周の旅/第61話 赤道直下で理科の実験~南半球の旅、始まる


 ケニアビザは五十ドル、国境で取得ができた。国境の手前も向こうも、町の名前は同じモヤレだったが、ケニア側の食堂では、インジェラはすでになく、肉とジャガイモのぶっかけ飯が出た。やっぱり米は最高だと思った。

 エチオピア連邦民主共和国
(Federal Democratic Republic of Ethiopia)
 ケニア共和国
(Republic of Kenya)

ケニア/国境の町モヤレ
【ケニア/国境の町モヤレ】

 モヤレからイシオロまで、ケニア北部は武装ゲリラ出没の危険地帯であり、公共のバスは走っていない。自転車走行などは問題外で、旅行者にとってここを通過する唯一の手段は、物資運搬のローリー(トラック)に乗ることだった。自転車を運ぶ料金が人の運賃よりも高く、交渉に揉めた。

 銃を携えた兵士が護衛に付き、三百キロあまりの道のりを途中の村で一泊し、丸二日の行程。エチオピアからケニアに向かうローリーは豚や牛を積んでいることが多いといわれ、二日間家畜と一緒ではかなり大変だと覚悟していたが、幸い僕たちが乗ったローリーの積荷は、普通の生活物資が入った麻袋だった。

 地平までサバンナが広がる雄大な景色が延々と続く。ときおり長槍を手にした男たちが羊を追っている風景に出会う。そんな大自然の中を、砂利道の悪路を、ローリーはひた走る。僕たちは満載された荷物の上にちょこんと乗っかり、振り落とされないようにしっかりと掴まっていなくてはいけなかった。

ケニア/ローリーの荷台で揺られる人々
【ケニア/ローリーの荷台で揺られる人々】

ケニア/途中の集落
【ケニア/途中の集落】

 イシオロに着いた途端、ジュノンが予備のタイヤを盗まれた。バスターミナルから宿に向かう途中でひったくられたのだ。

 運良く犯人は掴まり、タイヤは無事に帰ってきたが、しかし犯人はなんとも運が悪い。翌朝警察署で聞いた話によると、捕まったおやじには懲役四年の刑が下されるとのこと。盗まれた当初は憤っていたジュノンも、最後は犯人のおやじを哀れんでいた。

 そんな小事件の勃発したイシオロで、僕たちはドイツ人のチャリダー、スーリーに出会った。父親はレバノン人だというスーリーを仲間に加え、僕たちは三人で次の町ナニュキを目指すことになった。

ケニア/イシオロの町
【ケニア/イシオロの町】

 イシオロからナニュキまでは、千メートルの標高差を上りきって一日の距離。僕たちはのんびり語らいながら走った。

 ケニアはイギリスの植民地だったため、左側通行だ。僕にとっては日本以来十ヶ月ぶり、スーリーは生まれて初めての経験だと言った。感覚が慣れず、思わず右側を走ってしまいそうになる。

ケニア/チャリダー三人旅、走る
【ケニア/チャリダー三人旅、走る】

ケニア/チャリダー三人旅、休む
【ケニア/チャリダー三人旅、休む】

 沿道の子供たちが「ユーユー」と言ってくることもない。蠅の大群に襲われることもない。快適な舗装路。郊外の農園でスプリンクラーが回っていることに、僕はなにより驚いた。ケニアが大先進国に見えた。

「僕は絶対にあの国には戻らないよ」

 スーリーが笑った。彼もまた、エチオピアの子供の投石攻撃や蠅の多さには、かなり辟易したようであった。休憩の際には、ファンタを二本連続でがぶ飲みしていた。

ケニア/雄大な田園風景
【ケニア/雄大な田園風景】

*   *   *

 そしてナニュキ。なんの変哲もない小さな町であるが、町の中心部から一キロほど南に進んだ場所に、その標識は立っていた。

ケニア/世界の中心で愛を叫ぶ
【ケニア/世界の中心で愛を叫ぶ】

 アフリカの地図が描かれ、中央に赤い帯で「EQUATOR」の文字。赤道である。

 この場所で旅行者は、理科の実験を見学することができる。地元の兄ちゃんたちが小穴をあけた容器に水を注ぎ、コリオリの力の実証を見せてくれるのだ。北半球では水が時計回りに渦を巻いて流れ、南半球では逆に反時計回りになる。そして赤道上では渦が発生せず、まっすぐに直下していく。その渦の向きを決めているのがコリオリの力、地球の自転運動が生じさせる作用であるという理屈。

ケニア/赤道直下、理科の実験
【ケニア/赤道直下、理科の実験】

ケニア/赤道直下、理科の実験
【ケニア/赤道直下、理科の実験】

 驚いたことに、赤道直下では水が渦を巻かずに垂直に落ち、赤道標識からたった数歩、北か南にずれると、もう渦が生じ始めた。

「この場所が間違いなく赤道であるという証明さ」

 兄ちゃんは得意そうに説明してくれた。

「ほんとかなあ。なんか仕込んであるんじゃないの」とジュノンは半信半疑。ちなみにこの実験、三人で六十ケニアシリング(約百十円)の料金だった。兄ちゃんたちにとってはいい商売で、僕らにとってはいい旅の記念になった。

ケニア/赤道の町ナニュキ
【ケニア/赤道の町ナニュキ】

ケニア/いざ南半球へ
【ケニア/いざ南半球へ】

 その晩、僕は夜半に目覚めて小用に立った。時計の針は午前一時、ふと南の空を見上げると、そこに南十字星が輝いていた。すぐ下方には、太陽から最も近い恒星であるアルファケンタウリの姿も見えた。

 数日前、ひしゃくの頭半分だけを地平線から覗かせた北斗七星を見たが、まさに僕は今、北半球を去り、南半球に入らんとしているのだ。南へ。さらに南へ。

(註:科学的には、コリオリの力が働くのは台風の渦や海流のように大規模な場合であり、本文中の実験のように小さな水流の場合は無関係であるといわれている。ナニュキの青年たちがどのような仕掛けを使ったのかは不明である)

ケニア/いざ南半球へ
【ケニア/いざ南半球へ】

出発から13269キロ(40000キロまで、あと26731キロ)

できごと 距離
2001 05 26 アメリカ 旅立ち 空路アラスカへ
08 05 メキシコ トゥーラ手前
5000
09 04 グアテマラ 強盗事件発生 自転車を失う
6940
10 04 イタリア パナマから大西洋を越え、飛行機にて入国(ローマ)
11 11 トルコ イスタンブール手前
10000
14 W杯サッカー欧州予選を観戦 翌日新聞に載る
12 03 シリア 自転車にて入国(アレッポ)
2002 01 01 イラク バグダッドにて年越し
18 ヨルダン ペトラ先ラジフ
11000
20 エジプト 船にて入国(ヌエバ)
02 04 スーダン 船にて入国(ワディハルファ)
17 ゴタ~ガラバート間
12000
20 エチオピア 自転車にて入国(メタマ)
03 02 アディスアベバ到着
11 ヤベロ~ドブロワ間
13000
13 ケニア 自転車にて入国(モヤレ)
15 赤道通過

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