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自転車世界一周の旅/第55話 ハルツーム~青ナイルと白ナイルが出会う町


 二月八日、ハルツームに到着した。

 スーダン共和国
(The Republic of the Sudan)

 舗装路、信号、市場や屋台の賑わい、建ち並ぶビル。こぢんまりとはしているが、さすがに首都だ。青ナイル川に沿った一帯は政府の省庁が集まり、緑も多く、川べりで語らう人々やランニングで汗を流す人がいて、ここがアフリカであることを、しばし忘れさせた。

 街角いたるところにジュース屋があり、マンゴーやグァバのよく冷えたフレッシュジュースが一杯五十スーダンディナール(約二十五円)で売られていた。これがとても美味しい。地元の人にも大人気で、たいてい店内は混雑していた。

 町を歩いていると、道端に水がめをよく見かけた。葉を茂らせた街路樹の木陰に素焼きのかめが並び、ひしゃく付きで自由に飲めるようになっていた。日なたは焼けそうに暑いのだが、水がめの水は冷たくて驚きだった。

スーダン/道端の水がめ
【スーダン/道端の水がめ】

 中心部から小一時間ほど歩いたところには、青ナイルと白ナイルの合流地点があった。エチオピアのタナ湖を源流とする青ナイルと、ビクトリア湖に発する白ナイル。見比べると、たしかに色が違うようにも見えた。

 把握しやすい街の大きさと、安心して歩ける治安の良さ。僕ら四人のハルツームに対する第一印象は上々だった。

スーダン/ハルツーム市街を流れるナイル川
【スーダン/ハルツーム市街を流れるナイル川】

 夜、しかし僕たちは衝撃の出来事を目の当たりにした。午後十時過ぎ、遅めの夕食を終え、食堂から外に出てきたそのときだった。警官隊を荷台に満載した軽トラックが、どこからともなく現れた。飛び降りてくる警官たちは全員手に棒を持っていた。標的は物乞いとおぼしきボロをまとった子供たちだった。

 怯え逃げまどう少年たちを、警官隊は容赦なく殴打する。そして捕まった少年たちは、みな荷台に乗せられ、どこかへと連行されていった。

 イスラム原理主義が支配し、アメリカにテロ支援国家の烙印を押されている国スーダン。人が親切で、フレッシュジュースが美味しいだけの国ではないことを、はからずも僕らは痛感してしまった。

スーダン/ハルツーム中心部の商店街
【スーダン/ハルツーム中心部の商店街】

 国立博物館に行ったり、郵便局へ行ったり、外国人旅行者に必須の旅行許可証を取得したり、体調を崩してぐったりしていたり、そんなこんなでハルツームも四泊目になった。

 今後に備え、僕たちはマラリアの薬を買った。ニシムラさんがその点については詳しく、丁寧に教えてくれた。現在主流のマラリア薬はメフロキンと呼ばれる種類のものであり、強力な代わりに副作用が激しく、治療薬として携行する方法と、予防薬として週に一錠ずつ飲み続ける方法があった。

「アメリカ陸軍も採用している薬ですが、胃腸障害のほか、悪夢を見るという副作用もあると、WHOは言っています」

「悪夢を見る?」

 いったいどんな副作用だろうと思ったが、自転車移動を主とする僕は、病院のない田舎で発症することを恐れ、予防薬として服用することに決めた。

*   *   *

「僕はほんと運の悪い男なんですよ。中央アフリカに行ったときにね、クーデターに遭って軍隊に捕まったこともあるんです」

 とある夜、ニシムラさんがそんな話を切り出した。クーデターが発生して無政府状態になった中央アフリカで、軍の一派に捕まり、ジャングルの中の小屋に一週間も軟禁された経験があるというのだ。

 食事はろくに与えられず、近辺に自生しているマンゴーを食べて飢えをしのぎ、どうにか首都バンギの日本大使館に連絡をとるも、「こっちも動けない」と冷たくあしらわれてしまったそうだ。

「あのときはさすがに、もうだめだ、殺されると思いましたね」

 ニシムラさんはあっけらかんと笑った。

「本当はそのときにアフリカ一周する予定だったんです」

 結局は生きて隣国カメルーンに逃げることができたものの、持ち金は全て奪われており、旅はそこで挫折してしまったというのだ。

 僕は思った。そんな壮絶な体験に比べれば、グアテマラの強盗事件なんてマシ。旅を続けることができているだけ、ずっとマシじゃないかと。その上はもう、命を落とすこと以外にない。

「僕の旅の今回のテーマはこれなんです」

 ニシムラさんは自分の着ているTシャツを指差した。プロレスイベントのそのTシャツには、漢字で「武者修行」と書かれていた。

スーダン/ハルツームのモスク
【スーダン/ハルツームのモスク】

 僕はコスタリカで見つけた「愛AMOR」と書かれたシャツを持っていた。

「じゃあ、僕はこれで」

 たわいもない冗談のつもりだった。

 武者修行、愛、……。

(いったいこの旅で僕は、何を目指しているのだろう)

 ぼんやりと思った。

出発から11423キロ(40000キロまで、あと28577キロ)

できごと 距離
2001 05 26 アメリカ 旅立ち 空路アラスカへ
08 05 メキシコ トゥーラ手前
5000
09 04 グアテマラ 強盗事件発生 自転車を失う
6940
10 04 イタリア パナマから大西洋を越え、飛行機にて入国(ローマ)
20 ギリシア アテネ市内
8000
11 11 トルコ イスタンブール手前
10000
14 W杯サッカー欧州予選を観戦 翌日新聞に載る
12 03 シリア 自転車にて入国(アレッポ)
14 レバノン バスにて入国(ベイルート)
25 ヨルダン 自転車にて入国(アンマン)
30 イラク ツアーにて入国(バグダッド)
2002 01 01 バグダッドにて年越し
08 イスラエル バスにて入国(エルサレム)
13 ヨルダン バスにて再々入国(アンマン)
18 ペトラ先ラジフ
11000
20 エジプト 船にて入国(ヌエバ)
02 04 スーダン 船にて入国(ワディハルファ)

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