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自転車世界一周の旅/第16話 先住民文化が色濃く残る山岳州オアハカ


 八月十五日、メキシコシティを発った僕は、進路を南東にとった。

 標高三千メートルの峠を越え、アステカ時代から栄えたチョルーラの町では、トラチウアルテペトルと呼ばれる巨大神殿の遺跡を観た。土台の城壁や入り組んだお堀のような回廊の跡がふもとに残されているだけだったが、今はカトリックの教会が鎮座している頂きを含めて、山全体が一つの遺跡を形成していて、どことなく日本の山城を彷彿とさせた。

 その日および次の日は、もっぱら高速道路を走った。下道に比べると路肩が広く、舗装状態も良好。ときおり自転車禁止の標識を見かけたが、アメリカのように警察に叱られることはなく、なにより地元の人も自転車で走っていた。

 メキシコ合衆国
(United Mexican States)
メキシコ/プエブロを過ぎて
【メキシコ/プエブロを過ぎて】

メキシコ/オアハカ州の山岳地帯
【メキシコ/オアハカ州の山岳地帯】

 休憩は途中のガソリンスタンド。売店では水や行動食を調達する。BIMBOというブランドのパンが、さながら日本のヤマザキパンのようにどこへ行っても売られており、まさか日本語の貧乏と関係あるわけはなかろうが、貧乏旅行者の味方と僕は愛食していた。今回もまたビンボーパンをかじりながら休んでいると、子供たちが集まってきた。

「ドンデ・ヴァ?」

「ドンデ・ヴィエネ?」

 最初のうちはさっぱり分からないスペイン語だったが、ここにきて「ドンデ」が「どこ?」であることが聞き取れるようになってくる。それだけでも分かれば、会話が成り立った。

「シウダー・デ・メヒコ、オアハカ」

 地名を並べて答えればいいのだ。

「チーノ?」

「ノー。ハポン」

 中国人かと訊かれれば、日本人だと答える。

 やがて友達やら家族やらが集まってきて、さらなる質問攻勢を受けるのだが、残念ながらそこまでのスペイン語力が僕にはなかった。頃合いを見計らって彼らに手を振り、僕はまたペダルをこぎ出した。

メキシコ/オアハカ盆地へ
【メキシコ/オアハカ盆地へ】

メキシコ/オアハカ中心部
【メキシコ/オアハカ中心部】

 午後になって強烈な向い風に悩まされ、平地なのに時速十キロも出ない。そのあとの下り坂でどうにかペースを取り戻し、なんとか日暮れ前にテウアカンの町に着いた。

 テウアカンから先は、狭く細く曲線の多いうねった道が続く。全体としては下り基調で、標高は千メートル前後まで下がる。アステカ滅亡後のスペインがメキシコ支配の拠点とした中央高原を離れ、先住民文化が色濃く残る山深いオアハカ州へ。

 標高の下がったぶん空気が明らかにぬるくなった。インディヘナの比率が高い山間部は、ときおり政府に反旗を翻すゲリラ活動が行われる地域といわれ、そのためか街道の分岐では警察の検問があった。

メキシコ/オアハカ盆地を望む
【メキシコ/オアハカ盆地を望む】

 下り坂、上り坂、また下り、その繰り返し。集落はごくまばらで通り過ぎる車も少なかった。ひたすらサボテンと、その他青々とした植物に埋め尽くされた山の中の道。陽射しはきつく、気がおかしくなりそうだった。

 こんな道、たまに通過する村で怖いのが、道端をうろついている犬だった。たいていはおとなしいのだが、中には気の荒い奴がいて、けたたましく吠えながら追ってくる。

 咬まれて痛いのが嫌なのではない。恐ろしいのは狂犬病の可能性だ。ひとたび発症したら百パーセント助からず、よだれを垂れ流しながら死ぬといわれる狂犬病は、ある意味交通事故やゲリラ強盗よりも怖い。僕はやがて石ころを装備し、追いかけてくる犬に投げ付けて応戦するようになった。

メキシコ/モンテアルバン遺跡
【メキシコ/モンテアルバン遺跡】

メキシコ/オアハカの市場
【メキシコ/オアハカの市場】

*   *   *

 夕方、アンファン・バウティスタ・クイカトランという長い名前の村に着いた。北海道に日本語の地名とアイヌ語源の地名が両方あるように、メキシコもスペイン語系とアステカ・マヤ系が混在した地名が多い。標識や看板には単にクイカトランと表記されており、元々それだけの短い地名だったのだろう。

 石畳の坂道を行くと、小さな村の中心部があり、宿も一軒あった。広場の脇から土の小道を抜けてさらに奥へ歩くと、インディヘナとおぼしき人々の集落があった。女性たちは三つ編みで民族衣装を羽織り、子供たちと一緒に鶏があたりを走り回っていた。

 とはいえ本当に昔ながらの生活を保っているのかといえばそうではなく、電線が引かれ、パラボラアンテナが立つ家もあった。日産の車も見かけた。集落はさらに山肌に沿って奥へと続いていたが、僕は途中で引き返した。夕暮れだったこともあり、あまり深く進むのが良いことのように思えなかったからだ。

メキシコ/アンジュアン・バウティスタ・クイカトラン村
【メキシコ/アンジュアン・バウティスタ・クイカトラン村】

メキシコ/パレンケ遺跡
【メキシコ/パレンケ遺跡】

出発から5792キロ(40000キロまで、あと34208キロ)

できごと 距離
2001 05 26 日本 旅立ち 空路アラスカへ
27 アメリカ アンカレジにて自転車購入
0
06 05 フェアバンクス~デルタジャンクション間
1000
07 カナダ 自転車にて入国(ビーバークリーク)
14 アメリカ 自転車にて再入国(スキャグウェイ)
18 ジュノー市内
2000
22 船にてアメリカ本土上陸
07 01 ベア湖~ローガン間
3000
16 サンタモニカ手前
4000
20 メキシコ 自転車にて入国(ティファナ)
08 05 トゥーラ手前
5000
06 メキシコシティ到着

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