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自転車世界一周の旅/第136話 地球一周まで残り1万キロ 中国を目指して


 ラホールに戻り、僕は再び自転車と向き合った。リーガルインの宿主マリックと別れを交わす。

 ここから中国まで走るつもりだと言うと、彼は大袈裟に驚いた。そして周りの宿泊客に、まるで自分の自慢話のように「こいつは二年近くも自転車で旅を続けているんだ。すごいだろ」と、賑やかに語った。

 パキスタン・イスラム共和国
(Islamic Republic of Pakistan)

パキスタン/ラホールの宿にて
【パキスタン/ラホールの宿にて】

 自転車を担ぎ、狭苦しい階段を降りた。それだけでもう息遣いが荒くなる。身体の調子はお世辞にもよいとはいえなかった。

 僕はゆらりと自転車に乗った。歩き慣れた新市街の並木道。バスもリキシャも行き交う大通り。ハンドルが重くて思わずふらついた。

(これは記念すべき出発だ)

 ラホールからしばらくは単調な平坦路が続いた。太陽からの熱射は厳しくて、ふくらはぎに力が入らない。太ももも上腕もだるい。熱は下がっているはずだが、やはりしばらく寝たきりになっていた後遺症だろうか、体力が愕然と落ちていた。

パキスタン/中国を目指しラホール出発
【パキスタン/中国を目指しラホール出発】

 休憩のたび、サトウキビジュースや炭酸飲料を口にする。とりわけその場で搾ってくれるサトウキビジュースは、程よい甘味と清涼感がなんとも言えず、ガス欠になりがちな身体にエネルギーを与えてくれた。さらに、たまたまその場に居合わせたおじさんが、代わりに代金を払ってくれたことがあった。人々のそんな小さな優しさが、非力な僕の背中をぐっと押してくれる。

 疲れ果てた晩の食事。空腹は最大の調味料とはよく言ったもので、あれほど食べられなかった香辛料たっぷりのパキスタン料理が美味しく感じられた。明日のことを考え、胃袋に詰め込んだ。寝るときはシャルワールカミース。ゆったりとしたこの服装は身体を締め付けず涼しくて、寝巻きにちょうどよかった。

パキスタン/ラワルピンディ
【パキスタン/ラワルピンディ】

パキスタン/イスラマバード
【パキスタン/イスラマバード】

 三日目にラワールピンディを通過する。

 マルガラ峠を越え、小一時間ほどペシャワール方面に向かったところで、ついにカラコルムハイウェイとの分岐に来た。憧れのフンジュラブ峠を越え、中国へと至る道だ。

パキスタン/カラコルムハイウェイ入口
【パキスタン/カラコルムハイウェイ入口】

パキスタン/カラコルムハイウェイ序盤の道
【パキスタン/カラコルムハイウェイ序盤の道】

 翌日、シンキアリという集落を過ぎた川沿いの道、僕はまた記念すべき一つの区切りを達成した。

 通算走行距離三万キロ。最終目標四万キロまであと一万。中国の広大さを考えても成就できるかどうかは微妙であり、だからこそ最後まで走り続けようという意欲の再確認となった。

パキスタン/走行距離3万キロ突破
【パキスタン/走行距離3万キロ突破】

パキスタン/走行距離3万キロ突破
【パキスタン/走行距離3万キロ突破】

 ターコットからインダス川に沿って苛酷な道が始まった。V字型に深く切れ込んだ険しい地形。カラコルムハイウェイはその崖沿いを、岩壁にへばりつくようにして走っている。ときにインダスの濁流は遥か下のほうに見えなくなり、またあるときは谷間を駆け抜ける強烈な風に晒された。

 たゆまないアップダウン。たちの悪い子供たちの投石攻撃。パンクにも悩まされた。パキスタン製のチューブはバルブの質が悪く、携帯用の空気入れでは空気が入りにくかった。

パキスタン/インダス川
【パキスタン/インダス川】

パキスタン/カラコルムハイウェイの道標
【パキスタン/カラコルムハイウェイの道標】

パキスタン/カラコルムハイウェイを往く
【パキスタン/カラコルムハイウェイを往く】

 数日来の雨のためか崖が崩れ、道路が滝になっている箇所もあった。崖の上から水が落ちてきて、道路上を流れ、崖下のインダス川に向かって落ちていた。自転車から降りて押して歩けば、靴と靴下がぐしょ濡れになった。

 ときおりバスが転落事故を起こすこともあるという世界有数の難所道。荒涼壮大とした景色を楽しむ余裕はほとんどなかった。

パキスタン/増水により道路が川になっている
【パキスタン/増水により道路が川になっている】

 体調不良のままラホールを出発した僕。走りながら徐々に走力は回復していたが、疲労は確実に蓄積し、日焼けも筋肉痛もひどくなっていた。さらなる苛酷な運命が待ち受けているとは、想像もしていなかった。

パキスタン/ドベール村
【パキスタン/ドベール村】

パキスタン/カラコルムハイウェイを往く
【パキスタン/カラコルムハイウェイを往く】

「無理だ、無理。引き返しなさい」

 制服姿の警官が僕の姿を見とめ、大きく手を振ったのは、チラースという集落を過ぎてまもなくの地点だった。本来なら橋が架かっているところに穴があき、通行止めになっていた。大雨で橋が崩れたそうだ。しかし、荷物を担いだ人々は山側の崖沿いをぐるりと迂回していた。ざっと見る限り、自転車を担いで越えることはさほど雑作もないことのように思えた。

パキスタン/インダス川
【パキスタン/インダス川】

「危険だ。チラースに戻れ」

「行かなきゃいけないんです。約束もあるし」

 僕は振り切るようにして進んだ。自転車とザックを別々にして、二度に分けて運んだ。橋の落ちた箇所は難なく越えることができた。

 しかし、崩れているのは橋だけではなかった。そのあとひたすら道がなくなっていた。大規模な崖崩れであり、道が閉ざされていた。人間よりも大きい岩の塊が無数に転がっていた。

 僕はザックを背負い、自転車を担いだ。引き返すことは考えていなかった。この時点ではまだ、崖崩れ区間はすぐに終わるだろう。すぐにきれいな舗装路が現れて、自転車で走り出せるだろうと考えていた。まもなく、そんな見込みが甘過ぎたことが分かった。

パキスタン/カラコルムハイウェイを往く
【パキスタン/カラコルムハイウェイを往く】

パキスタン/カラコルムハイウェイを往く
【パキスタン/カラコルムハイウェイを往く】

できごと 距離
2001 05 26 アメリカ 旅立ち 空路アラスカへ
08 05 メキシコ トゥーラ手前
5000
11 11 トルコ イスタンブール手前
10000
2002 04 10 ジンバブエ ビクトリアフォールズ先
15000
08 10 イラン マクー~マルカンラル間
20000
10 19 パキスタン ワガ国境を越えて、インド入国
25000
2003 01 01 インド バラナシにて年越し
21 ネパール 自転車にて入国(ビールガンジ)
02 20 ポカラ~タンセン間
28000
26 インド 自転車にて再々入国(ネパールガンジ)
03 02 仏教八大聖地巡礼達成
03 ビワール先
29000
07 再び、デリー到着
12 パキスタン 自転車にて再入国(ラホール)
24 アフガニスタン 車にて入国(ジャララバード)
25 カブール到着
04 07 パキスタン 車にて再々入国(ペシャワール)
29 中国を目指し、ラホールを出発
05 02 シンキアリ先
30000

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