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自転車世界一周の旅/第120話 安宿街タメル、近郊の村、交差する人々


 カトマンズで僕が滞在した宿は、タメル地区の中央に位置するその名もタメルゲストハウス。屋上からヒマラヤの白嶺を眺めることができた。シャワーを浴びたあとの身体を乾かすのにも、剃りたての頭を乾かすのにも、一張羅の長ズボンを洗濯するにも、晴れた日の屋上は心地よかった。

 ネパール王国
(Kingdom of Nepal)

ネパール/カトマンズ盆地の入口
【ネパール/カトマンズ盆地の入口】

 常連の日本人が二人いた。一人はカトマンズで日本語を教えているというエリちゃん。近所のアパートに住んでいたが、よく出入りしていて、ぺらぺらのネパール語で従業員たちに溶け込んでいた。服装もサリーっぽい布を肩にまとっていたので、僕ははじめネパール人かと思ってしまったくらいだった。

 もう一人はエミちゃんといい、宿で働いているネパール人の若者カマルと恋仲になっていた。カマルはまじめな性格で、日々懸命に日本語を勉強していた。一方、タメルゲストハウスには、日本語が達者なスニフという坊主頭の青年も働いていたが、彼は普段はもっぱら英語しか話したがらなかった。理由を尋ねると、「下手に日本語を話すと、逆に怪しまれるから」と若干寂しそうに言った。

ネパール/カトマンズ、ダルバール広場
【ネパール/カトマンズ、ダルバール広場】

 懐かしい再会もあった。バラナシの久美子ハウスにいたゴッチンや、ブッダガヤの座禅仲間ナベくん。そして街角でばったり出会ったのは、イスタンブールで一緒だったライダーカップル、ケンジさんとヒサエさんであった。二人は中央アジアを越え、中国からネパールに入ってきたのだと言った。久しぶりにコンヤペンションにいた頃の話をして、僕はとても楽しかった。

 中東からアフリカへ南下する旅の前半では、顔見知りの仲間たちと、何度も繰り返し再会があった。アジア横断の過程ではそれがなく、インドで出会う旅行者とはなかなか話が合わなくて、僕は寂しさを覚えることがあった。日本を一人飛び出して旅を続けているが、むしろ孤独には弱くなっているのかもしれなかった。

ネパール/ステーキレストランにて
【ネパール/ステーキレストランにて】

ネパール/地酒が飲める居酒屋にて
【ネパール/地酒が飲める居酒屋にて】

*   *   *

 そんなある日、エリちゃんが、タメルゲストハウスで掃除婦をしているディディの村に遊びに行かないかと誘ってくれた。

 エリちゃんのバイクに二人乗りで小一時間、近郊のガイリガウンという村は、畑の中に小道が通り、平たい家屋がぽつぽつと点在している素朴な田舎の村だった。ディディの家もまた、四畳ほどの部屋が二つの、小さな平屋だった。隅っこが台所になっており、ベッドが置かれ、タンスが置かれ、白黒のテレビもあった。

 ちなみに、ディディというのは本名ではない。ネパール語で「おばさん」という意味の言葉がそのまま通称になっていた。大きな丸い眼鏡が特徴的なディディは、四十歳にしてすでに孫がいるのだと言った。最初の子供は十三のときに産んだらしかった。

 ディディは英語がまったく話せなかったが、エリちゃんが逐一日本語に訳してくれた。

「彼女は掃除人としての自分にすごい誇りを持っているのよ。『私の仕事っぷりはみんなに認められているんだから。ほかの宿で掃除人を募集していたときに、私が人を紹介してあげたのよ』って自慢するの」

ネパール/郊外のガイリガウン村
【ネパール/郊外のガイリガウン村】

 ディディはエリちゃんと、あるいは近所のおばさんたちと一緒に、よく煙草を吹かしていた。旦那のいるところでは吸えないから、こうして女同士つるんでこっそり吸っているのだと言った。

 ネパールに限らず、途上国の女性はどうしても表に出てくることが少なく、家の中に押し込められている印象がある。でも、そんなことはない。こっそり煙草を楽しんだり、自信を持って働いていたりするのだ。そんな当たり前のことは、旅行者の、とりわけ男性である僕には、なかなか知り得ない側面だった。

 ディディには十五歳になるアニタという娘がいた。彼女は自分の勉強のノートを見せてくれた。英語と対訳のネパール語が書かれていた。

「ディディは文盲なの」

 エリちゃんがそっと教えてくれる。タメルゲストハウスの各部屋には部屋番号が書かれているが、彼女はその数字も読めず、ただ「二階の角の部屋」というように、場所で覚えているのだそうだ。

ネパール/郊外のガイリガウン村
【ネパール/郊外のガイリガウン村】

 日本から持参の折り紙で鶴を折ってみせた僕に、アニタは知っているわと答えた。

「ディディは知らないって言ってるから、もともとネパールに折り紙があるわけではないみたい」

 エリちゃんが言った。どうやら、この国にたくさんある日本からの援助団体や学校が子供たちに教え、それが広まった結果らしい。僕が渡した折り紙で上手にユリの花を折りながら、アニタは片言の英語でおどけてみせた。

 たった一世代で大きな差だ。昔と変わらぬ生活が続いているように思える田舎でも、時代とともに世の中は確実に変わっているのだ。僕はそう思わずにはいられなかった。

出発から27584キロ(40000キロまで、あと12416キロ)

できごと 距離
2001 05 26 アメリカ 旅立ち 空路アラスカへ
08 05 メキシコ トゥーラ手前
5000
11 11 トルコ イスタンブール手前
10000
2002 04 10 ジンバブエ ビクトリアフォールズ先
15000
05 26 トルコ 旅立ち1周年 南アフリカから飛行機にて入国
07 20 アジア全走行を目指し、55日ぶりにイスタンブール発
08 10 イラン マクー~マルカンラル間
20000
10 19 パキスタン ワガ国境を越えて、インド入国
25000
25 デリー到着
11 03 プシュカル先
26000
09 ムンバイ行きの夜行列車で自転車が壊される
12 03 スリランカ 飛行機にて入国(コロンボ)
19 インド 飛行機にて再入国(チェンナイ)
2003 01 01 バラナシにて年越し
04 ブッダガヤに到着
16 ナーランダ付近
27000
21 ネパール 自転車にて入国(ビールガンジ)
24 カトマンズ到着

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