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自転車世界一周の旅/第115話 日本寺の座禅、西洋人たちの仏教


 ブッダガヤには各仏教国それぞれのお寺があった。マハーボディ寺院を核として、広範囲にわたって点在していた。インド寺、タイ寺、ミャンマー寺、スリランカ寺、ブータン寺、チベット寺、中国寺、韓国寺、もちろん日本寺もあった。

 インド
(India)

インド/ブッダガヤ、ベトナム寺
【インド/ブッダガヤ、ベトナム寺】

 主要宗派が共同で建立したという日本山印度寺。敷地内には砂利が敷かれ、大きな鐘があって、懐かしい瓦屋根の本堂が建てられていた。そこでは毎日朝と晩の二回、誰もが自由に参加できる座禅を行っていた。

 朝は午前六時から。この時間、冬のブッダガヤはまだ暗く、ひっそりと静寂に満ちていた。お坊さんのお経の声と、木魚を叩く音色だけが響き、ゆったりとした時間が流れていた。朝の参加者は少なく、僕も起きるのが辛くて二日にいっぺんほどの参加だったが、朝の静けさにはなんともいえない味わいがあった。

 夕方は午後五時から。お寺の周囲には露店が並び、物乞いも多く、非常に騒がしい時間帯。それでもお寺の中に入ると閑寂としていた。座禅が終わると、お坊さんの講話と質疑応答があった。

インド/ブッダガヤ、印度山日本寺
【インド/ブッダガヤ、印度山日本寺】

「そもそもこのお寺が建立された目的は、布教のため、聖地だからということではなく、先の大戦で亡くなった戦没者慰霊のためでした。それが時代が流れ、日本人も自由に旅行するようになり、西洋人の中にも仏教に関心を持って訪れる人が多くなった。そういった人たちの受け入れの意味もあって、このような座禅を始めるようになりました」

「毎日唱えているお経はなんですか」

 誰かが質問した。

「般若心経です。浄土宗と法華宗を除くあらゆる宗派で広く使われているお経であり、最も一般的なお経なので、般若心経を使っています」

インド/もう一つある日本寺の大仏
【インド/もう一つある日本寺の大仏】

 またある日、お坊さんはこんなことをおっしゃった。

「イラクのフセイン大統領が声明を出したそうです。まもなく戦争になるかもしれませんね」

 日本寺の座禅参加者は、朝はせいぜい四人、夕方は増えて十から十五人ほどだった。やはり日本人が大半だった。短期の滞在で一日だけの座禅という人が多かったが、中には一ケ月以上ブッダガヤにいるのだという人もいた。

 一ヶ月契約で付近の民家に民泊をしているというトモノくん、チベットやアフガニスタンなどを回ってきたというマサキくん、インド圏に二年間もいるというヒミコさん、実家が真言宗のお寺だというナベくんなど。泊まっている宿はバラバラだったが、朝晩の座禅や、日本寺に併設の図書館に行けば会うことはでき、一緒に食事に行くこともあった。

 久美子ハウスに泊まっていた韓国人女性のキョンヒと再会し、座禅に誘ったこともあった。彼女は「韓国ではこうするの」と、膝を地面に付け、手を合わせていた。スリランカの人々は床に頭をつけて祈っていたし、チベット人に至っては五体投地だ。直立のまま合掌するだけの日本は、なんとも作法が簡略されているのだなと思った。

インド/ブッダガヤの中心部にて
【インド/ブッダガヤの中心部にて】

*   *   *

 ある晩、僕は日本寺で出会った西洋人たちと夕食に行った。ドイツ人、イタリア人、ブラジル人、スイス人と実に国籍多彩な顔ぶれだった。彼らがよく行くのだというチベット料理の食堂に入った。彼らは器用に箸を使いこなし、仏教について語った。

 日本人の旅行者は観光気分でブッダガヤに来る。しかし本来仏教圏には属していない西洋人は、逆にそれなりの強い興味を抱いて、わざわざブッダガヤを訪れているようだった。彼らは僕よりもずっと仏教について詳しく、僕よりもずっと深く仏教になにかを求めていた。

インド/ブッダガヤ、台湾寺と大通り
【インド/ブッダガヤ、台湾寺と大通り】

 ブラジル人が自分の母親の話を切り出した。かなり裕福な家庭であったようだが、彼の母親は不意の事故で亡くなってしまったらしかった。彼はそのときの悲しみがいかばかりであったかを、感情たっぷりに話した。するとドイツ人が俺もだと言った。イタリア人も言った。スイス人も声をあげた。

 なんという偶然だろうか。僕を除き、そこに集まった西洋人たちは、みな片親を、あるいは両親を、すでに亡くしていた。

「私たちはまだそんな年齢じゃない。それなのに、みんながみんなすでに親を失っているというのは、不思議な共通点だ」

 ブラジル人が言うと、全員がうなずいた。彼らはその共通点に驚きつつも、自分たちがみな、親を失った悲しみの過程で仏教に出会い、その興味に導かれてブッダガヤまで来たのだということを認めた。欧米の若者たちの間でじわじわと仏教が支持されているという話を、聞いたことがあった。しかし欧米人は、たとえ日頃教会など全然行かないという人でも、自分がキリスト教徒であるという自覚は持っている。

 彼らが仏教に惹かれた理由はなんだろう。僕は改めて、仏教とは何か、その問いを自分の中で反芻した。

インド/ブッダガヤ、チベット寺
【インド/ブッダガヤ、チベット寺】

出発から26855キロ(40000キロまで、あと13145キロ)

できごと 距離
2001 05 26 アメリカ 旅立ち 空路アラスカへ
08 05 メキシコ トゥーラ手前
5000
11 11 トルコ イスタンブール手前
10000
2002 04 10 ジンバブエ ビクトリアフォールズ先
15000
05 26 トルコ 旅立ち1周年 南アフリカから飛行機にて入国
07 20 アジア全走行を目指し、55日ぶりにイスタンブール発
08 10 イラン マクー~マルカンラル間
20000
19 アーベイェク市内
21000
09 06 ヤズド~メフリーズ間
22000
17 パキスタン クイ・タフタン先
23000
27 デラ・アラー・ヤル付近
24000
10 07 ラホール到着
19 ワガ国境
25000
19 インド 自転車にて入国(アムリトサル)
25 デリー到着
11 03 プシュカル先
26000
09 ムンバイ行きの夜行列車で自転車が壊される
12 03 スリランカ 飛行機にて入国(コロンボ)
19 インド 飛行機にて再入国(チェンナイ)
2003 01 01 バラナシにて年越し
04 ブッダガヤに到着

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