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自転車世界一周の旅/第75話 ケープタウン~標高差千メートルの景観都市


 アフリカ大陸の終着駅ケープタウン。アフリカーンス語ではカープスタッドと呼ばれるその街を、僕は最後徒歩で目指した。

 南アフリカ共和国
(Republic of South Africa)

 自転車が壊れたのだ。エチオピアで部品交換した後輪の軸部が、ちょうどアグラス岬に着いたところで固まってしまっていた。応急手当てを繰り返し、なんとか騙し騙し乗り続けたのだが、ケープタウンまで残り六十キロとなったところで、ついに全く動かなくなった。ヒッチハイクすることも考えたが、思い直した。

(歩けばいいじゃないか)

 そう不意に閃いたのだ。ここまで来て残りわずかな距離を、車に乗ってしまうのは嫌だった。

南アフリカ/ケープタウンを目指す
【南アフリカ/ケープタウンを目指す】

 歩いている途中、白人と黒人の警官二人組に話しかけられたことがあった。自転車に荷物山積みで歩いていたため、怪しく思われたようだ。旅行者であることを言うと、「銃は持っているのか?」と真顔で問われた。護身用に銃を持つのは、この国の常識なのだろうか。

 手前三十キロほどの地点からは、道沿いに大規模なスラム街が続いた。ここに来るまでの間も、黒人の貧しい生活の様子は何度となく目にする機会があったが、人口三百万人を誇るケープタウンのスラムは格段に巨大であった。バラック小屋の集まりが、まるで一つの山のようにそびえて見えた。

 片側二車線の幹線道路から緑地帯を隔て、高さ二メートルほどの金網を挟んで、すぐ隣。時速百キロで通り去る車にとっては一瞬の風景だが、路肩を歩きながらの僕は否応なしに目の当たりにすることとなった。金網を乗り越えてくる者もちらほらいたが、彼らはただ道路を横断し、向こう側に行きたいだけなのであった。

南アフリカ/ケープタウン郊外のスラム街
【南アフリカ/ケープタウン郊外のスラム街】

 やがてテーブルマウンテンが見えてきた。丘を越えていくと、大西洋が見えた。手前には高層ビルが建ち並んでいた。見晴らしのいい高台は高級住宅街になっていて、家の門という門に「二十四時間・安全」などと書かれた警備会社の看板が括りつけられていた。汚い恰好でぼんやり近づいていくと、狙撃されてしまいそうな威圧感があった。

 二日間歩きどおしで、脚が棒のように張っていた。自転車を押し続ける腕も痛かった。しかし、なんとも言えぬ深い感慨が込み上げてきた。

南アフリカ/ケープタウン市街へ
【南アフリカ/ケープタウン市街へ】

*   *   *

 ケープタウン最大の名所は、もちろんテーブルマウンテンである。ロープウェイもあったが、僕は徒歩で登った。歩いて登っている人はほかにも何人かいた。

南アフリカ/テーブルマウンテンからの眺望
【南アフリカ/テーブルマウンテンからの眺望】

 標高は千八十六メートル、四時間の道のりを歩き、平たいテーブルの上に達すると、ふもとは強風だったのに、不思議と凪いでいた。前日雲をかぶっていたせいか地面は湿気を含み、木道が整備されていて、まるで日本の尾瀬のようであった。

 三百六十度広がる視界、二百七十度が青い海。南には鉤型に突き出した喜望峰が、北の湾にはロベン島が見えた。

南アフリカ/テーブルマウンテンからの眺望
【南アフリカ/テーブルマウンテンからの眺望】

南アフリカ/テーブルマウンテン山頂
【南アフリカ/テーブルマウンテン山頂】

 ネルソン・マンデラ元大統領が拘留されていたことで有名なロベン島は、臨海地区から出ているツアーに参加することでのみ、訪れることができた。船代、島内バス代、案内代など込みで百ランド(約千百八十円)の金額だった。

 その日天気は快晴で、船上からは、テーブルマウンテンを背後に従えたケープタウン港の眺めが素晴らしかった。天然の良港というのはたいてい風光明媚なものであるが、千メートルの落差をもったこのケープタウンの景色にかなう港町は、世界中探してもないのではないかと思われた。

南アフリカ/標高差千メートルのケープタウン港
【南アフリカ/標高差千メートルのケープタウン港】

 島に着いてすぐバスに乗り、本土が見える展望所や、囚人たちが働かせられた石灰岩の採掘所跡などを巡った。案内は黒人の青年で、熱っぽい口調ながら聞き取りやすい英語であった。

 そして刑務所の見学。ここで案内役が年配の黒人に代わった。そう、かつて実際にここに収監されていた、元政治犯のおじさんだった。英語は聞きづらかったが、言葉は重かった。ロベン島はアパルトヘイト時代に政治犯、それも非白人の政治犯専門に使用されていた刑務所なのだ。現在は島ごと博物館になり、広島やアウシュビッツと並ぶ、負の世界遺産として知られていた。

南アフリカ/ロベン島の牢獄
【南アフリカ/ロベン島の牢獄】

 船からは泳いでいるイルカの姿が見えた。島内にはペンギンの棲息域もあった。しかし、腕に自信があったら泳いでもいけそうなくらい本土が近くに見えるこの島で、一番印象に残ったのは、そんな美しい自然環境ではなく、マンデラが暮らしたという独房の寒々しさでもなかった。人種による経済格差が露骨なこの国にあって、他の観光地はひたすら白人客ばかりであったのに対し、このツアーだけは、黒人、カラード、インド系をも含めた有色人種の姿が目立っていたことだった。

南アフリカ/ロベン島のペンギン
【南アフリカ/ロベン島のペンギン】

南アフリカ/ロベン島の刑務所
【南アフリカ/ロベン島の刑務所】

出発から18025キロ(40000キロまで、あと21975キロ)

できごと 距離
2001 05 26 アメリカ 旅立ち 空路アラスカへ
08 05 メキシコ トゥーラ手前
5000
09 04 グアテマラ 強盗事件発生 自転車を失う
6940
10 04 イタリア パナマから大西洋を越え、飛行機にて入国(ローマ)
11 11 トルコ イスタンブール手前
10000
2002 01 01 イラク バグダッドにて年越し
20 エジプト 船にて入国(ヌエバ)
03 15 ケニア 赤道通過
04 03 ザンビア 鉄道にて入国(ルサカ)
09 ジンバブエ 自転車にて入国(ビクトリアフォールズ)
10 ビクトリアフォールズ先
15000
18 ボツワナ 自転車にて入国(フランシスタウン)
21 ディノクエ~ディベテ間
16000
25 南アフリカ 自転車にて入国(マフィケン)
05 01 ブリッツタウン~ビクトリアウエスト間
17000
09 最南端アグラス岬到達
12 ケープタウン手前
18000

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