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  第66話 ダルエスサラーム



第67話  ルサカの西、脅威の自転車行商人現る



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 アフリカ中南部の国ザンビア。その首都ルサカ。ルサカは何もない街だった。

 中心部は碁盤の目に区切られ、大通り沿いに郵便局や銀行、スーパーなどがまとまっていた。スーパーの周りにはストリートチルドレンが集まっていたが、昼間歩き回るぶんにはさほど危険な感じはしなかった。そこから跨線橋を越え、二十分ほど歩くと住宅街になった。付近に大学でもあるのか、ノートや教科書を携えた学生たちが歩いていた。ガソリンスタンドにはコンビニが併設されていた。

ニュー・カピリムポシ駅
【ザンビア/ニュー・カピリムポシ駅】
 ザンビア共和国
(Republic of Zambia)

 そんな住宅街の一角に、チャチャチャゲストハウスがあった。入口は厳重な鉄扉が閉じられ、中に入ると卓球台やプールがあった。ちらほらと西洋人の宿泊客がいた。掲示板には、サファリツアーやキャンピングツアーの参加募集広告がぺたぺたと貼り付けられていた。一泊二万六千四百クワッチャだが、庭にテントを張れば半額だった。先を急ぐエーちゃんは一泊だけで去っていったが、僕はもう一泊した。今後の方針を考えたかったのだ。

 ルサカから先、どっちを目指すか、それが問題だった。懸念は三月に行われたばかりの、ジンバブエ大統領選挙の結果。現職のムガベ大統領が再選したのだが、不正操作の疑惑があった。ムガベは強気に情報統制を行い、反体制派への弾圧はもちろん、自分に不利な情報を流す外国メディアに対しても規制を加えているという話だった。最悪内戦が勃発する可能性もあるとさえいわれていた。

 ルサカから南に下れば、ジンバブエの首都ハラレまで四日の距離。西へ向かえば、国境のビクトリア滝までやはり四日の距離だった。情勢を不安視して、ハヤシくんやエーちゃんはジンバブエを回避するつもりだと話していた。

 僕は迷った。ジンバブエには、ブラックアフリカ最大といわれる歴史遺跡グレートジンバブエがあった。ぜひ観たいと思っていた。

 ゲストハウスのスタッフにジンバブエの情勢を尋ねたが、はっきりとした回答は得られなかった。宿泊者の中にも、ジンバブエから来たという人はいなかった。地図と何度もにらめっこしながら逡巡した末、僕はとりあえずザンビア国内を移動し、ビクトリア滝の観光拠点となる町、リビングストンを目指すことに決めた。

ルサカ市街の鉄道橋より
【ザンビア/ルサカ市街の鉄道橋より】
ルサカ中心部
【ザンビア/ルサカ中心部】

*   *   *

 ルサカ市街は思った以上に小さく、すぐ郊外に抜けた。スラムなのか、薄汚い恰好の人々が目立ち、雰囲気はあまり良くなかった。

 しかし天気は良く、緩やかな丘陵地が続き、走りやすかった。そしてなんといっても、ルサカで僕の尿は正常の色に戻っていた。大便の色も回復し、熱も下がった。ペダルは久しぶりに軽かった。

 ルサカから二日目の午後、やたら細長い自転車に乗った男に出会った。二人乗り用のタンデム自転車を改造したもので、後部サドルがあったはずの場所に巨大な荷物袋がぶら下がっていた。

 彼はボンウェルと名乗った。黒人の年齢は分かりにくいが、三十代後半だろうか。袋の中身はルサカで仕入れた魚だと教えてくれた。僕とボンウェルの会話は英語で行われたが、尋ねると、母語はトンガ語だとのこと。ルサカなどザンビア中央部の言葉はニャンジャ語であり、また違う言葉だった。スワヒリ語のような強い現地語がないため、首都へ行って商売しようと思うと、結局共通語の英語を覚えないとどうしようもないのだろうか。彼の村に着くまでの約十キロを、僕はボンウェルと併走した。

ルサカから郊外へ
【ザンビア/ルサカから郊外へ】
ビクトリア滝を目指して
【ザンビア/ビクトリア滝を目指して】

「昨日の夜にルサカを出たんだ」

 ボンウェルは言った。そしてひたすらここまで走ってきたのだそうだ。今夜は自分の村で泊まり、今度は村の生産物を積んで、また明日は自転車でルサカに向かう予定らしかった。ルサカからここまでの距離はすでに二百キロ近い。自転車で一日半もしくは丸二日の道のり。彼はその距離をひたすら往復することで生計をたてている。凄まじい体力、凄まじい生活力だ。

「この自転車は中国製で、おやじの代から乗っているんだ」

 彼は自慢げに言った。

 ボンウェルもすごいが、そのタンデム自転車もすごいと、僕は驚嘆した。おそらく何度も何度も修理を繰り返し、雨の日も風の日も満載の荷物で走り続けているのだろう。イタリアで買った僕の二台目は、スーダンやエチオピアの悪路を経てガタがき始めていたが、そのタンデム車の酷使されっぷりに比べれば、まだまだ甘っちょろい。

 偉大な男に出会ってしまったと僕は思った。これがアフリカ標準なのだろうか。

(アフリカ恐るべし)

マザブカという町にて
【ザンビア/マザブカという町にて】
タンデム自転車の男
【ザンビア/タンデム自転車の男】

<出発から14721キロ(40000キロまで、あと25279キロ)>


できごと 距離
2001 05 26 アメリカ 旅立ち 日本から空路アラスカへ

0

08 05 メキシコ トゥーラ手前

5000

09 04 グアテマラ 強盗事件発生 自転車を失う

6940

10 04 イタリア パナマから大西洋を越える 翌日二台目の自転車を購入
11 11 トルコ イスタンブール手前

10000

2002 01 01 イラク バグダッドにて年越し
18 ヨルダン ペトラ先ラジフ

11000

20 エジプト 船にて入国(ヌエバ)
02 17 スーダン ゴタ〜ガラバート間

12000

03 11 エチオピア ヤベロ〜ドブロワ間

13000

13 ケニア 自転車にて入国(モヤレ)
15 赤道通過
24 タンザニア 自転車にて入国(ナマンガ)
28 サーメ〜モンボ間

14000

04 03 ザンビア 鉄道にて入国(ルサカ)


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第68話 ザンビア西部