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  第62話 ナイロビ(前編)



第63話  世界三大性地で八頭身黒人美女と踊る夜



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 一週間の間に、ニューケニアロッジの宿泊者にも変化があった。アディスアベバで会ったヒロさんや、彼と仲のいいトシくんがやって来た。ドイツ人チャリダーのスーリーも現れた。

 入れ代わりに出て行ったのはハヤシくんだった。彼は一足先に南アフリカを目指し、旅立っていった。シリアで初めて会って以来、ケニアまで合計九ヶ国を共にした。でも、次の再会はなさそうだ。僕はバスターミナルまで見送りにいった。

宿の近くの飲み屋にて
【ケニア/宿の近くの飲み屋にて】
 ケニア共和国
(Republic of Kenya)

*   *   *

 誰が言い出したのか、世界三大性地という呼称がある。男とは本当にどうしようもない生き物で、世界中どこへ行っても、何人か集まると必然的にそんな話題になる。

 バンコク、サンパウロ、ナイロビ。この三都市がそうだといわれていた。アムステルダムを加えて四大だとか、プノンペンのほうがすごいとか、まあ、こだわる人は勝手にこだわっているようだった。

 ともあれ、ナイロビはディスコが有名だった。そのテの女性がたくさん集まってくるディスコがあり、入場料はさして高くなく、買う、買わないは自由。だから、とりあえず見に行くだけでも楽しめる、という話。ヒロさんとイーダさんと三人で、ニューフロリダという名前の有名店を訪れた。昼間なら歩いていける距離だが、夜は危険だ。さすがにタクシーを使った。

 一階の受付で百八十シリング(約三百二十円)の入場料を払い、階段を上って二階へ。二階はぐるっと円形で広く、真ん中にミラーボールが輝くダンスステージ、周辺にカウンター、さらに外側にソファー席という構造になっていた。

 僕らが着いた時間はまだ少し早いのか、ダンスステージは機能しておらず、ソファー席などにまばらに客がいた。ざっと見る限り、男性客は白人や中国人が大半のようで、女性はほとんどが黒人。いわゆる客ではなく、つまり商売人。驚くほどすらりとスタイルが良く、美人揃いであった。

 僕たちは男三人、顔を見合わせて驚いた。

「どこにあんな美人が隠れていたんでしょうね」

「街歩いていても、絶対いませんよ」

宿の近くの飲み屋にて
【ケニア/宿の近くの飲み屋にて】
宿で夕食
【ケニア/宿で夕食】

 ソファー席に座っていると、ボーイがドリンクの注文をとりに来る。注文しなくてもお姉ちゃんは向こうから勝手にやって来る。みな英語はペラペラで、商売だから当然だろう、盛んに売り込んできた。会話のやりとりをするだけで楽しいが、こっちにその気がなさそうだと分かると、違う席に行ってしまった。

 やがて客が増え、混んでくる。僕たちより少し年輩の、在住の日本人に会った。

「ナイロビで女の子買った?」

「いいえ、買ってません」

「やめといたほうがいいよ。危ないから」

 エリートビジネスマンなのだろうか。そんな忠告をくれた彼らは、しかしノリノリの笑顔で、モデル並みのスタイルの黒人美女を捕まえ、腕を組んで踊っていた。

「シュウのかわいいって言ってた子、あのおやじに取られてるぜ」

 ヒロさんが向こう側のカウンターを指差した。さっきソファーに座っていたとき、戯言で誰がいいか、僕らは好みを交換していた。僕が選んだ女の子は、小太りの白人おやじにべったりだった。

ナイロビの鉄道駅
【ケニア/ナイロビの鉄道駅】

 やがてダンスタイムが始まった。回り始めたミラーボールが眩しかった。

「踊りに行こうぜ」

 ヒロさんが真っ先にステージに飛び出していった。ヒロさんは僕より一つ年上で、僕と同じ社会人経験組だった。

「営業はナンパと同じだ。ナンパがうまい奴は営業もうまい。前の会社で仕事ができる人は、たいがいみんな女の扱いもうまかったね」

 イーダさんは、「俺はいいっすよ」と言って踊りには出なかった。僕はヒロさんに引っ張られるようにして、ステージに出た。ディスコの経験なんてろくになかったから、リズム感溢れる黒人に混じって、さぞかしへっぽこな踊りっぷりだったとは思うが、まあ、楽しければいいのだ。

「シュウ、ドレッド振り乱して、すげえかっこいいよ」

 少し離れたところでステップを踏んでいたヒロさんが叫んだ。かと思えば、「あの子、狙おう」と言って、はちきれんばかりの胸を揺らした女の子目がけて跳んでいった。

 いつのまにか僕は、自分よりも背の高い超スレンダーなお姉さんと踊っていた。八頭身の身体をぎゅっと寄せてくる。

「あなたのことが好きよ」

 囁くように言われる。

 まいった。

 ちょうどよくダンスタイムの休憩が入り、気がつくと日付が変わって午前一時過ぎ。理性とお金を吸い取られる前に、僕らはそそくさと帰ることにした。

ダウンタウンの交差点
【ケニア/ダウンタウンの交差点】
ニューケニアロッジにて
【ケニア/ニューケニアロッジにて】

<出発から13477キロ(40000キロまで、あと26523キロ)>


できごと 距離
2001 05 26 アメリカ 旅立ち 日本から空路アラスカへ

0

08 05 メキシコ トゥーラ手前

5000

09 04 グアテマラ 強盗事件発生 自転車を失う

6940

10 04 イタリア パナマから大西洋を越える 翌日二台目の自転車を購入
11 11 トルコ イスタンブール手前

10000

14 W杯サッカー欧州予選を観戦 翌日新聞に載る
12 03 シリア 自転車にて入国(アレッポ)
2002 01 01 イラク バグダッドにて年越し
18 ヨルダン ペトラ先ラジフ

11000

20 エジプト 船にて入国(ヌエバ)
02 04 スーダン 船にて入国(ワディハルファ)
17 ゴタ〜ガラバート間

12000

20 エチオピア 自転車にて入国(メタマ)
03 02 アディスアベバ到着
11 ヤベロ〜ドブロワ間

13000

13 ケニア 自転車にて入国(モヤレ)
15 赤道通過


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第62話 ケニア南部