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自転車世界一周の旅/第60話 大地を引き裂くグレートリフトバレーを越えて


 アディスアベバから南の幹線道は、幸いなことに全舗装だった。体力的にはもちろん、精神的にもぐっと楽になった。

 エチオピア連邦民主共和国
(Federal Democratic Republic of Ethiopia)

エチオピア/グレートリフトバレーを下る
【エチオピア/グレートリフトバレーを下る】

 相変わらず子供たちは「ユーユーユー!」とうるさいが、気持ちに余裕があると、挨拶も返せるし、石を投げられそうになっても、簡単に振り切ることができた。「ハヴ・ア・ナイス・トリップ(良い旅を)」と、欧米風に声をかけられたときは驚いたが、同時に嬉しくもあった。中にはたしかに「ギヴミー・マネー」としか言ってこない輩もいるが、概ねエチオピア人は親切で、ただ外国人に対する好奇心が強いだけなのだ。そう思えるようになった。

 死海からモザンビークまで、アフリカ大陸を東西に引き裂いている大地溝帯グレートリフトバレー。エチオピアにもその一部が縦断している。

 アディスアベバから二百五十キロ、広がりのある草原の中を、僕たちは丸二日間かけて下った。グレートリフトバレーの底に達してからは、谷に沿った上り坂、そして小さな峠をいくつも越えていく道になった。

エチオピア/道端で売られる大量のスイカ
【エチオピア/道端で売られる大量のスイカ】

エチオピア/アボストという村
【エチオピア/アボストという村】

 食事にも慣れてきた。アディスアベバを離れ、僕たちの献立は再びインジェラを軸に展開することになったが、もはや苦ではなかった。ジウァイという村で食べた夕食の具は、日本の旅館で出てくるような一人用の小鍋で煮込んだ肉料理。別の日に食べた昼食は、小皿に品数たくさんの副菜が出た。おかずの種類が豊富というのは、日々変化があって楽しい。インジェラ独特の酸っぱさもいつのまにか克服していた。ジュノンと二人、「最近は飯が楽しみだな」と話すようになった。

 村の市場でトマトを買った。太陽をふんだんに浴びたトマトは、美味しくて安い。値段が分からなくて一ブル(約十六円)を差し出したら、ひと山くれた。中南米が原産といわれるトマトがエチオピアの山奥にも広まっている。なんて素晴らしい野菜なのだろうとしみじみ思った。

エチオピア/フィセハ・ゲネットという村
【エチオピア/フィセハ・ゲネットという村】

エチオピア/牛の市場
【エチオピア/牛の市場】

 日中はよく、サトウキビをかじりながら走った。集落を訪れれば、サトウキビは必ず売っていた。ただで貰えることもあった。竹筒のような堅い皮を歯でかじりとって、中の甘くて水分たっぷりの繊維質にしゃぶりつく。繊維は飲み込めないので、味がしなくなったらその時点で、ちょっと行儀は悪いのだが道端に吐き捨てた。

エチオピア/グレートリフトバレーを越えて
【エチオピア/グレートリフトバレーを越えて】

 ただ問題なのは水。水なしで生きられる人間はいないが、とりわけチャリダーにとっては、水の確保が最重要課題になる。

 エチオピアでは、どんな山奥の田舎の村でも、宿や商店で水を貰うことはできた。ミネラルウォーターなどという気の利いたものは存在しない。大きな素焼きのかめに汲み置かれた水。茶色く濁っていたり、白い不純物が沈殿していたり、煙草の灰のような味がしたりする。でも、ほかに選択肢がなければ飲むほかない。それでも現地の人々にとっては、おそらく重労働の末に苦労して汲んできた貴重な水だ。遠慮した量しか貰えなかった。

 厄介なのは蠅の軍団で、村にいても、道を走っていても、とにかく四六時中ぶんぶん羽音をたててまとわりついてきた。背中や荷物に留まるのならいいのだけれど、顔の周りを飛び回るのだけはたまらなかった。

エチオピア/エチオピア南部の道
【エチオピア/エチオピア南部の道】

*   *   *

 フィチャワという村に着いた。この村のはずれで、向こうからやって来る日本人チャリダーに出会った。面識はなかったが、ジュノンとは以前からメールのやり取りをしていた相手だった。

 せっかくなので僕たちは、一晩同じ宿に泊まることにした。彼はケープタウンを去年の五月に出発、一年計画でアフリカ大陸を縦断中なのだと言った。

「アフリカを自転車!」などと驚かれることが多いが、こんなことをしている酔狂な奴は意外といるのだ。エチオピアの片田舎で、日本人の自転車野郎が三人集結する。僕たち以外そのことを知らない。愉快な話である。

エチオピア/フィチャワの宿にて
【エチオピア/フィチャワの宿にて】

 フィチャワを過ぎてから、地形が、そして人々の顔つきや服装が変わってきた。山がちな高原を下り、だだっ広い原野の景色になった。それまではまばらに集落が続いたが、ほとんど人家を見なくなった。ジュノンの自転車のスポークが折れるという小事故があったが、それ以外はいたって順調だった。

 ひたすら一本の道が続く。人々の肌は幾分黒さを増し、女の人は色鮮やかな一枚布をまとった恰好をしている。話す言葉もアムハラ語ではないようだ。

エチオピア/だだっ広い原野の道
【エチオピア/だだっ広い原野の道】

 草原にぽつぽつと背の高い木々、どこまでも青い空。子供の頃からなぜか知っているアフリカの景色。

 北の風。追い風。僕はアフリカを駆ける。

エチオピア/国境の町モヤレへ
【エチオピア/国境の町モヤレへ】

エチオピア地図

出発から13185キロ(40000キロまで、あと26815キロ)

できごと 距離
2001 05 26 アメリカ 旅立ち 空路アラスカへ
08 05 メキシコ トゥーラ手前
5000
09 04 グアテマラ 強盗事件発生 自転車を失う
6940
10 04 イタリア パナマから大西洋を越え、飛行機にて入国(ローマ)
11 11 トルコ イスタンブール手前
10000
14 W杯サッカー欧州予選を観戦 翌日新聞に載る
12 03 シリア 自転車にて入国(アレッポ)
25 ヨルダン 自転車にて入国(アンマン)
2002 01 01 イラク バグダッドにて年越し
08 イスラエル バスにて入国(エルサレム)
18 ペトラ先ラジフ
11000
20 エジプト 船にて入国(ヌエバ)
02 04 スーダン 船にて入国(ワディハルファ)
17 ゴタ~ガラバート間
12000
20 エチオピア 自転車にて入国(メタマ)
03 02 アディスアベバ到着
11 ヤベロ~ドブロワ間
13000

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