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第41話
内戦から復興する中東の小国レバノン
アンタルヤ以来伸ばし始めている髭が、だいぶ頬や顎に目立つようになってきた。
ダマスカスからベイルートへ。シリアの首都からレバノンの首都への道のりは、国境を越えてわずか半日。僕はアルハラメインホテルに自転車を預け、ハヤシくんと一緒にバスを乗り継ぎ、雨のベイルートに到着した。
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レバノン共和国
(Republic of Lebanon) |
レバノンといえば内戦のイメージが強い。宗教対立による十五年間に渡る内戦の傷跡が、今も市内の各所に残されていた。その結果不思議なことには、ベイルートは旧市街が新しく、新市街が古い。本来の旧市街が内戦で徹底的に破壊されたために、西に数キロ離れたハムラ地区が新市街として栄えているのだが、近年になって旧市街が復興し、真新しいビル群が建築ラッシュとなっていた。
ベイルート市内を歩いている限り、ここがイスラム教徒の多い国であるとはほとんど感じられなかった。ヘジャブ姿の女性は少なく、キリスト教徒地区においては巨大なクリスマスツリーも目立つ。大きなスーパーもあり、走っている車も立派で、洗練された街並みの雰囲気はアラブというより欧州に近く、かつて中東のパリと謳われたことを彷彿とさせた。
【レバノン/バスでシリアからレバノンへ】
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【レバノン/活気溢れるベイルートの目抜き通り】
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レバノンは小さな国だが、見所は多い。
ハヤシくんたちと訪れたバールベックはローマ帝国時代の遺跡。高さ二十メートルの巨大な列柱が、吸い込まれそうな濃さの青空に映えていた。
ラマダン明けの休暇に入っているためか、地元レバノン人の観光客が多い。彼らからしたら僕たち東洋人が珍しいのだろう、「君たちの写真を撮ってもいいか?」とお願いされたのがおかしかった。
翌日は北部のビブロス遺跡を訪れた。ビブロスは、アルファベットの基礎を作ったフェニキア文明の発祥の地で、その名前は、聖書バイブルや古代の紙パピルスの語源であるともいわれている。といっても、そんな昔の遺跡は形あるものとしてはあまり残っておらず、十字軍時代の砦の姿が目立っていた。
印象深かったのは、再開したばかりの国立博物館。内戦中、彫像を石膏で覆うなどして、展示品を命懸けで隠し、戦争の被害から護った人々の記録映画が放映されていた。彼らの努力のお陰で、僕たちはバールベックやビブロスからの出土品も楽しむことができるのだ。
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【レバノン/バールベック遺跡、ジュピター神殿】
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【レバノン/バールベック遺跡、バッカス神殿】
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【レバノン/海洋交易で栄えたビブロス遺跡】
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僕やハヤシくんが泊まったのは、タラルスニューホテルというバスターミナル近くの宿で、『地球の歩き方』にはまだ載っていなかったが、口コミで旅人が集まってきていた。
レバノンはシリアに比べ物価が高く、タラルスホテルには自由に使える台所があったため、僕たちは毎日自炊をした。あるときは近所のスーパーで、蟹の剥き身が約四百グラムで五千五百レバノンポンド(約四百七十円)という値段で売られているのを発見し、嬉々として買った。ところが、鍋に入れて煮込んでいる途中で、脚の本数が足りないことに気づいた。
「ひょっとして蛙じゃないですか、これ」
やむなく食した蛙肉は、小骨を取り除くのが面倒だったが、しかし意外と美味であった。
* * *
五日目、そろそろベイルートを出ようと思った頃、イスタンブールのサッカー観戦以来の付き合いであるユーシさんが現れた。
「イラクに行けるって話、知ってる?」
その晩、ユーシさんが切り出した。
【レバノン/地中海に面したベイルート、鳩の岩】
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【レバノン/新しくなったベイルート旧市街】
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「みたいですね」
僕は答えた。沖縄のお父さんことオーシロさんから、イラクに行けるようなので行ってみようかと思っています、という内容のメールを数日前に受け取っていた。
「アンマンから一週間五百ドルでツアーが出ているらしいよ。クリフホテルで申し込めるらしいんだ」
ユーシさんの情報源は、僕も面識のあるオーサキくんだった。
「五百ドルは正直ちょっと高いわね」
日本を出て三年目だというカオリさんが言った。最年長のカオリさんはずっとアジアを旅しており、ユーシさんとも顔見知りだった。
「どうせならイラクで年越ししようぜ」
ユーシさんがみんなを誘った。ユーシさんやカオリさんたちは、このあと急ぎ足でエルサレムに向かい、そこでクリスマスを迎え、アンマンに戻って来るつもりだと言った。
「僕も行こうかな、イラク」
年少のハヤシくんがおずおずと話題に加わった。
二日後、僕は一人ベイルートを離れた。シリアに戻り、まだ見ていないパルミラ遺跡に寄ったあと、ヨルダンを目指す予定だった。
バスが山道を上っている途中で、雨が雪に変わった。停まってチェーンを巻いている車の列で渋滞していた。レバノンにはスキー場があるくらいだから雪が降ってもおかしくはないが、思わぬ冬の景色に僕は興奮していた。
【レバノン/タラルスの夕食風景】
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【レバノン/タラルスホテルのオーナーと】
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<出発から10481キロ(40000キロまで、あと29519キロ)>
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