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  第36話 イスタンブール(後編)



第37話  十二人のカッパドキア、そしてまた一人



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 イスタンブールを発ち、カッパドキアを経由してシリアまで走る。僕はもちろんそのつもりだったのだが、ツグちゃんとアオちゃんの二人組に一緒に行こうと誘われ、さらに内陸はすでに雪が降り始めているという情報を聞き、気が変わった。

 結局、マサトやユーシさんなどサッカー観戦組に加え、試験休みに入ったエリフも誘い、新たにコンヤペンションにやって来た仲間を含め、総勢十二名の団体旅行になった。トルコのバスは荷物室が巨大で、自転車は分解せずに無料で載せることができた。

 トルコ共和国
(Republic of Turkey)

 カッパドキアはトルコ中央部の高原地帯に広がる大奇岩地帯。いたるところ雪化粧が施されていたが、幸い天気は晴れ、恐れていたほどの厳寒ではなかった。季節はずれのこの時期、ほかに観光客は少なく、僕たちは拠点となるギョレメの町で、男七人と女五人で部屋を分け、名物の洞窟宿を貸切にした。

 徒歩だけではとても回りきれないので、二日目に運転手付きでワゴン車を借りる。値段交渉はユーシさんとエリフが担当、十二人で八千万トルコリラ(約六千二百円)という代金になった。

 白銀の大地にまっすぐな道。雲一つない青空が広がり、気持ちのいいドライブだった。

 デリンクユの地下都市。四世紀頃からキリスト教徒が住み始めたといわれ、その規模は実に地下八階。階段と部屋が窮屈に入り組んでいて、背をかがめないと歩けない箇所も多かった。食堂として使われていた部屋や、石の回転扉などがあり、往時は四万人もの人々が生活していたというから驚きだ。

 続いて断崖に挟まれた川沿いの道、ウフララ渓谷を歩く。こちらも、随所に住居や礼拝場の跡が残されていた。雪はなく、枯れ葉が敷き詰められて、晩秋の雰囲気が漂っていた。

カッパドキア、ギョレメ屋外博物館
【トルコ/カッパドキア、ギョレメ屋外博物館】
カッパドキア、ギョレメ屋外博物館
【トルコ/カッパドキア、ギョレメ屋外博物館】

ギョレメの宿にて
【トルコ/ギョレメの宿にて】
カッパドキアの風景
【トルコ/カッパドキアの風景】

 あくる日はセルヴェ屋外博物館へ。垂直にそそり立つ岸壁にたくさんの窓があいており、崖全体で一つの町になっていた。中はくり抜かれて部屋や通路や階段が複雑に巡っていて、これまた立体的な迷路のようであった。

 最頂部はざっと地上五階の高さ。どこからどう登れば辿り着けるか、みんな子供のようにはしゃいで駆け回っていた。一番走り回っていたのはアオちゃん、積極果敢に縦坑をするする登っていくのはエリフ。どちらかというと女性陣のほうが元気だった。

「エリフのような女の子のことを、日本語でオテンバっていうんだ」

 僕やマサトがからかうと、「どういう意味よ」とエリフが怒った。

 男性陣が喜んだのは、そのあと林立するキノコ岩を眺めたときだった。ユーシさんたちが張り切ったポーズで写真を撮っていた。

地下都市の内部
【トルコ/地下都市の内部】
ウフララ渓谷にて昼食
【トルコ/ウフララ渓谷にて昼食】

隊商宿キャラバンサライ
【トルコ/隊商宿キャラバンサライ】
林立するキノコ岩
【トルコ/林立するキノコ岩】

 その夜、宿の仕事の都合でエリフは一足早くイスタンブールに帰ることになった。僕たちは彼女の分だけ先に夕食を用意した。

「またコンヤペンションに戻ってきますか?」

「たぶん……」

 僕は言葉を濁した。シリア、ヨルダンと南下し、エジプトまで行く。寒い冬をエジプトで越して、春になってどうしようか。それは未定だった。

「楽しかったね」

 料理をまだ半分以上お皿に残し、最後にエリフが言った。

*   *   *

 カッパドキアで十二名いた仲間は、地中海に面した港町アンタルヤで五人に減り、さらにシリア国境にほど近いアンタクヤで二人になった。あいにくの雨が続き、喉を痛め体調を崩した僕は、バス移動を繰り返した。

アンタルヤの海辺
【トルコ/アンタルヤの海辺】
アンタルヤ市街
【トルコ/アンタルヤ市街】

 そして十二月二日、最後まで一緒だったユーシさんと別れ、僕は三週間ぶりに自転車に乗った。雨は止まなかったが、国境だけはやっぱり自転車で越えたかったのだ。

 久しぶりの一人旅。右手には鉄条網が続き、兵士を乗せた車が目立った。そのままシリアに入国してもよかったのだが、トルコでもう一泊したかった僕は、国境手前のレイハンルという町で、宿を探した。

 夕方六時過ぎ、トルコ語でロカンタと呼ばれる食堂で暇をつぶしていると、店内にいた地元の若者たちが話しかけてきた。彼らは英語がほとんど話せず、僕はごく片言のトルコ語で、自分が日本人であることを伝えた。

「一緒に遊びにいかないか」

 言葉は通じなくとも、彼らがそう誘っていることが、僕には分かった。家にお邪魔してチャイと呼ばれる紅茶を御馳走になり、ルールの分からないトルコ式麻雀を見学した。さらには場所を移してビリヤードを楽しんだ。小さな田舎の町でも、色々な娯楽があるのだと知った。

 そして最後、四人乗りのバイクでいささか肝を冷やしながら、宿まで送ってもらった。独りぼっちになった寂しさを忘れさせてくれる、トルコ最後の温かい夜だった。

国境の町アンタクヤ
【トルコ/国境の町アンタクヤ】
レインハルで出会った男たち
【トルコ/レインハルで出会った男たち】

トルコ地図

<出発から4060キロ(40000キロまで、あと35940キロ)>


できごと 距離
2001 05 26 アメリカ 旅立ち 日本から空路アラスカへ

0

07 20 メキシコ 自転車にて入国(ティファナ)
08 05 トゥーラ手前

5000

09 04 グアテマラ 強盗事件発生 自転車を失う

6940

10 03 パナマ 出国 空路大西洋を越える
04 イタリア 飛行機にて入国(ローマ)
05 二台目の自転車を購入、再出発
07 トルヴァイアニカ先

7000

14 ギリシア 船にて入国(パトラ)
20 アテネ市内

8000

30 ペラ手前

9000

11 02 ブルガリア 自転車にて入国(ブエゴエフグラード)
09 トルコ 自転車にて入国(エディルネ)
11 イスタンブール手前

10000

14 W杯サッカー欧州予選を観戦 翌日新聞に載る


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第38話 アレッポ