|
第37話
十二人のカッパドキア、そしてまた一人
イスタンブールを発ち、カッパドキアを経由してシリアまで走る。僕はもちろんそのつもりだったのだが、ツグちゃんとアオちゃんの二人組に一緒に行こうと誘われ、さらに内陸はすでに雪が降り始めているという情報を聞き、気が変わった。
結局、マサトやユーシさんなどサッカー観戦組に加え、試験休みに入ったエリフも誘い、新たにコンヤペンションにやって来た仲間を含め、総勢十二名の団体旅行になった。トルコのバスは荷物室が巨大で、自転車は分解せずに無料で載せることができた。
 |
トルコ共和国
(Republic of Turkey) |
カッパドキアはトルコ中央部の高原地帯に広がる大奇岩地帯。いたるところ雪化粧が施されていたが、幸い天気は晴れ、恐れていたほどの厳寒ではなかった。季節はずれのこの時期、ほかに観光客は少なく、僕たちは拠点となるギョレメの町で、男七人と女五人で部屋を分け、名物の洞窟宿を貸切にした。
徒歩だけではとても回りきれないので、二日目に運転手付きでワゴン車を借りる。値段交渉はユーシさんとエリフが担当、十二人で八千万トルコリラ(約六千二百円)という代金になった。
白銀の大地にまっすぐな道。雲一つない青空が広がり、気持ちのいいドライブだった。
デリンクユの地下都市。四世紀頃からキリスト教徒が住み始めたといわれ、その規模は実に地下八階。階段と部屋が窮屈に入り組んでいて、背をかがめないと歩けない箇所も多かった。食堂として使われていた部屋や、石の回転扉などがあり、往時は四万人もの人々が生活していたというから驚きだ。
続いて断崖に挟まれた川沿いの道、ウフララ渓谷を歩く。こちらも、随所に住居や礼拝場の跡が残されていた。雪はなく、枯れ葉が敷き詰められて、晩秋の雰囲気が漂っていた。
【トルコ/カッパドキア、ギョレメ屋外博物館】
|
|
【トルコ/カッパドキア、ギョレメ屋外博物館】
|
【トルコ/ギョレメの宿にて】
|
|
【トルコ/カッパドキアの風景】
|
あくる日はセルヴェ屋外博物館へ。垂直にそそり立つ岸壁にたくさんの窓があいており、崖全体で一つの町になっていた。中はくり抜かれて部屋や通路や階段が複雑に巡っていて、これまた立体的な迷路のようであった。
最頂部はざっと地上五階の高さ。どこからどう登れば辿り着けるか、みんな子供のようにはしゃいで駆け回っていた。一番走り回っていたのはアオちゃん、積極果敢に縦坑をするする登っていくのはエリフ。どちらかというと女性陣のほうが元気だった。
「エリフのような女の子のことを、日本語でオテンバっていうんだ」
僕やマサトがからかうと、「どういう意味よ」とエリフが怒った。
男性陣が喜んだのは、そのあと林立するキノコ岩を眺めたときだった。ユーシさんたちが張り切ったポーズで写真を撮っていた。
【トルコ/地下都市の内部】
|
|
【トルコ/ウフララ渓谷にて昼食】
|
【トルコ/隊商宿キャラバンサライ】
|
|
【トルコ/林立するキノコ岩】
|
その夜、宿の仕事の都合でエリフは一足早くイスタンブールに帰ることになった。僕たちは彼女の分だけ先に夕食を用意した。
「またコンヤペンションに戻ってきますか?」
「たぶん……」
僕は言葉を濁した。シリア、ヨルダンと南下し、エジプトまで行く。寒い冬をエジプトで越して、春になってどうしようか。それは未定だった。
「楽しかったね」
料理をまだ半分以上お皿に残し、最後にエリフが言った。
* * *
カッパドキアで十二名いた仲間は、地中海に面した港町アンタルヤで五人に減り、さらにシリア国境にほど近いアンタクヤで二人になった。あいにくの雨が続き、喉を痛め体調を崩した僕は、バス移動を繰り返した。
【トルコ/アンタルヤの海辺】
|
|
【トルコ/アンタルヤ市街】
|
そして十二月二日、最後まで一緒だったユーシさんと別れ、僕は三週間ぶりに自転車に乗った。雨は止まなかったが、国境だけはやっぱり自転車で越えたかったのだ。
久しぶりの一人旅。右手には鉄条網が続き、兵士を乗せた車が目立った。そのままシリアに入国してもよかったのだが、トルコでもう一泊したかった僕は、国境手前のレイハンルという町で、宿を探した。
夕方六時過ぎ、トルコ語でロカンタと呼ばれる食堂で暇をつぶしていると、店内にいた地元の若者たちが話しかけてきた。彼らは英語がほとんど話せず、僕はごく片言のトルコ語で、自分が日本人であることを伝えた。
「一緒に遊びにいかないか」
言葉は通じなくとも、彼らがそう誘っていることが、僕には分かった。家にお邪魔してチャイと呼ばれる紅茶を御馳走になり、ルールの分からないトルコ式麻雀を見学した。さらには場所を移してビリヤードを楽しんだ。小さな田舎の町でも、色々な娯楽があるのだと知った。
そして最後、四人乗りのバイクでいささか肝を冷やしながら、宿まで送ってもらった。独りぼっちになった寂しさを忘れさせてくれる、トルコ最後の温かい夜だった。
【トルコ/国境の町アンタクヤ】
|
|
【トルコ/レインハルで出会った男たち】
|
<出発から4060キロ(40000キロまで、あと35940キロ)>
|