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  第28話 イタリア南部



第29話  ΣやΩの国、葡萄酒色の空



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 ペロポネソス半島を横断し、首都アテネへ。

 ギリシア共和国
(Hellenic Republic)

船にてギリシア入国
【ギリシア/船にてギリシア入国】
港町パトラ
【ギリシア/港町パトラ】

五輪発祥の地オリンピア遺跡
【ギリシア/五輪発祥の地オリンピア遺跡】
パトラから二百キロ離れたアテネへ
【ギリシア/パトラから二百キロ離れたアテネへ】

 アテネの中心部は、ホテルや両替所など観光客向けの施設が目立つ一方で、スーパーやドネルスブラキ(ギリシア風バーガー)の屋台など庶民的な店も多くあった。お洒落なブティックばかりが並び、どこか生活感の薄かったローマの繁華街に比べ、敷居の低い印象があった。ΣやΩといった数学や物理の用語でしか馴染みのないようなギリシア文字たちが、僕を出迎えてくれた。

 オリンピックを三年後に控えたアテネは、町じゅうが巨大な工事現場と化していた。シンダクマ広場の地下鉄駅構内には、高速道路の建設計画や地下鉄の延伸計画が示され、貼り出された写真や地図に市民が見入っていた。

ペロポネソス半島、コリントス運河
【ギリシア/ペロポネソス半島、コリントス運河】
アテネの地下鉄工事中
【ギリシア/アテネの地下鉄工事中】

 道路や鉄道の工事だけならいいのだが、残念だったのは、観光地もそれに合わせて修復工事が進められていたことだった。アテネのみならずギリシアの象徴的存在といえば、アクロポリスの丘に建つパルテノン神殿であるが、無残にも鉄骨や大型クレーンをまとっていた。工事中のせいか、もともと乾燥した気候のせいか、砂っぽく煤けた空気だった。

 とはいえ眺めは抜群である。眼下には古代アゴラの遺跡、丸屋根が特徴的なビザンティン様式の正教会、そしていくつもの丘を呑み込むようにしてアテネ市街が広がっていた。西にはかすかに海の青も見えた。

古代アゴラの遺跡からパルテノン神殿を望む
【ギリシア/古代アゴラの遺跡からパルテノン神殿を望む】
アテネ市街の夕焼け
【ギリシア/アテネ市街の夕焼け】

 見所の多いアテネであるが、その中でも僕が興味を持ったのは郊外のマラトンだった。ペルシア戦争の古戦場マラトンは、オリンピック競技の華マラソンの発祥となった場所だ。アテネ市街の北西、自転車に取り付けたメーター上では四十・一八キロの距離、渋滞とアップダウンに悩まされ、オリンピック選手よりも遥かに遅く、片道三時間もかかってしまった。ちなみに道路標識の「km」は、この国では「χμ」と書かれていた。

 マラトンの町外れには、小さな円墳と石碑が残されていた。少し離れて博物館があり、五輪のマークが付けられた記念碑の広場もあった。しかし全般的に観光客の姿は少なく、閑散として物静かであった。

 アテネには三泊したが、宿の同室にはアルバニア人の男性が泊まっていた。英語は全く通じなかったが、身振りや手振りで、あるいは持ち物を見せ合って、意志の疎通ができた。携帯電話を持っていた彼は、旅行ではなく、どうやら仕事を探しにアテネへ出てきているようであった。

 統合進むEUの中ではお荷物ともいわれるギリシアであるが、周辺の東欧諸国に比べればずっと豊かなのだろう。パトラのユースホステルにもブルガリア人が泊まっていたし、オリンピック景気を当てにして、人が集まっているのかもしれなかった。

マラトンの丘
【ギリシア/マラトンの丘】
安宿にてアルバニア人と
【ギリシア/安宿にてアルバニア人と】

*   *   *

 ローマから二週間、だんだんと旅の欲を取り戻してきた僕は、エーゲ海に浮かぶ島々の中から、クレタ島を選んで訪れることにした。

 クレタはギリシアの島の中で最大であり、かつ最も南に位置している。なんといってもミノタウルスの迷宮で知られるクノッソス宮殿が有名であるが、せっかくなので僕は、クノッソスから遠い西部のハニアに入り、島を半周して最大の町イラクリオンに向かうという予定を立てた。

 小ベネチアと呼ばれる入り江が美しいハニアの町をあとにし、まもなく海沿いから離れると、道はとても島とは思えないほど険しくなった。無理もない。クレタは、中央部には二千メートル級の山々を擁する険峻な島なのだ。

ハニアの日の出
【ギリシア/ハニアの日の出】
クレタ島海沿いの道
【ギリシア/クレタ島海沿いの道】

 雲一つない青い空、赤茶けてゴツゴツとした山、殺伐とした道が続いた。途中のスピルという村は名水の産地らしく、ライオンの顔をした彫像からこんこんと水が流れ出し、観光客が並んでボトルに汲んでいた。こんな場所でいったいどこから水が湧いてくるのだろうと不思議に思ったが、チャリダーにとって水は必需品。僕もありがたくいただいた。

 到着した島の南部、アギア・ガリニという町はビーチリゾート化していて、大勢の観光客で賑わっていた。夕方で海水は冷たかったけれど、子供たちはまだ元気に泳いでいた。

 園地を見つけ、僕は野宿を決め込んだ。広がる海を眺めながら、ふと手元の地図に目を落とし、その海がリビア海と名づけられていることに気づいた。さすがに水平線にアフリカ大陸の姿は見えなかったが、距離的には近いのだろう。

 葡萄酒色の海と詠んだのはホメーロスだったか。夕陽に染まる空を眺めながら、僕はむしろ空だろうと思った。

 葡萄酒色の空には、白く明るい三日月が浮かんでいた。

赤茶けたクレタの山並み
【ギリシア/赤茶けたクレタの山並み】
フェニトス遺跡
【ギリシア/フェニトス遺跡】

クノッソス遺跡
【ギリシア/クノッソス遺跡】
クノッソス遺跡
【ギリシア/クノッソス遺跡】

<出発から8156キロ(40000キロまで、あと31844キロ)>


できごと 距離
2001 05 26 アメリカ 旅立ち 日本から空路アラスカへ

0

07 20 メキシコ 自転車にて入国(ティファナ)
08 05 トゥーラ手前

5000

09 02 グアテマラ 自転車にて入国(サンタ・エレーナ)
04 強盗事件発生 自転車を失う

6940

18 エルサルバドル バスにて入国(サンサルバドル)
20 ホンジュラス バスにて入国(コパンルイナス)
24 ニカラグア バスにて入国(マナグア)
26 コスタリカ バスにて入国(サンホセ)
30 パナマ バスにて入国(パナマシティ)
10 03 出国 空路大西洋を越える
04 イタリア 飛行機にて入国(ローマ)
05 二台目の自転車を購入、再出発
07 トルヴァイアニカ先

7000

14 ギリシア 船にて入国(パトラ)
20 アテネ市内

8000



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第30話 ギリシア中部