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それでも私がオーマイニュースに期待する理由

イエスマンになるつもりは毛頭ない宣言




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 私は5月下旬以降、市民記者としての活動を半分停止した状態である。

 のっけから何を書いているのだろう? と思う方もいるかもしれない。

 8月24日時点で、私は95件の記事がオーマイニュースに掲載されているが、そのうち54件が「銀色の轍」と題した自転車旅行記である。残りの41件は、子供が生まれたときの出産立会いの記事だったり、野球観戦についての記事だったり、ふと見かけた風景を切り取って描いた記事だったりと様々であるが、いずれも5月中旬までに投稿したものである。つまり自転車旅行記を除く日常的な記事の投稿は、3カ月間差し控えた状態にある。

 以前は思いつくまま、あるいはどこかへ出かけるたびに、そのことを記事にしてオーマイニュースに投稿していたのだが、最近はその意欲がない。書きたいと思うネタはいくつもあるのだが、あえてオーマイニュースのために時間を割いて、記事としてまとめ上げようという気にならないのだ。

 なぜか?その理由を、今回は久しぶりの「記事」にしてみようと思う。

 ◇ ◇ ◇

 2006年8月の創刊以来、私にとってオーマイニュースは、期待と失望の繰り返しであった。ざっと思い起こしてみるだけでも、昨年11月のオピニオン会員廃止を巡る論争、今年1月の鳥越元編集長の辞任騒動、今年4月のシステムリニューアルに伴う不具合頻発と混乱続きであり、そのつどオーマイニュース編集部の対応は、不十分であり不親切であると感じられた。

 一方で、オーマイニュースに掲載される市民記者の記事は、面白いものが多かった。今まで知りえなかった観点から書かれた記事、当事者が書いているからこそ迫力のある記事、他の媒体では読むことのできないような記事、それらの記事に対するひと言欄のやり取りを含めて、大変興味を引いた。

 だからこそ、多少編集部に不満を感じることがあろうとも、それは生まれたばかりの市民記者メディアを担う不慣れさと、休みも満足に取れない忙しさのためと差し引いて理解し、納得していた。自分なりにどういう形で貢献できるかを考え、少なくとも記事を書き、送り続けることはしていた。

 その気持ちが潰(つい)えたのが、4月から5月にかけての3つの出来事だった。

(1) 国民投票法案反対記事の連続掲載

 昨年8月の創刊以来、オーマイニュースの掲載基準や編集基準を巡っては、「政治的、思想的な偏りがある」という批判が常にあった。その懸念がまさに的中する形で表面化したのが、国民投票法案に反対する記事、しかも市民記者ではなく著名人の投稿記事が、連続的にトップ記事扱いで掲載されたことである。この件については、他の市民記者の方が詳しく記事にされているのでそちらを参照されたいが、周知のとおりオーマイニュースの中立性を大きく揺るがす事件であった。

【参考記事】
「元木編集長代理に聞いてみた『国民投票法案の是非を問う!』事件の真相」(高橋篤哉記者)
「元木編集長を30分独占して聞いた四方山」(郡司薫記者)

(2) 私自身の記事の取り扱い

 これに対し、私は自分なりの憲法についての考え方を記事にして投稿してみた。「イラクから撤退し、自主憲法への道標とせよ」という原題の記事であったが、投稿から1週間「記事受付」のままであり、編集部に「まだですか」と確認をして、ようやく300円記事として掲載された。しかも「アメリカに追随しているのはなぜ?」と改題されていた。とても残念に思った。

(3) 小宮山記者との共作記事の取り扱い

 システムリニューアルから1カ月という節目を迎えて、「オーマイニュース新システムの是非を問う(前編・後編)」という記事を、小宮山圭祐記者と共同で執筆した。新システムで頻発していた不具合の問題を中心に、編集部の対応の遅さに対する不満や、(1)の問題についても触れた。小宮山さんも私も、相当真面目に話し合って書いたのだが、この記事は(2)以上に不遇な扱いで、およそ3週間放置された後に、「ニュースのたね」としてひっそり掲載された。

 (1)も(2)も公平性の観点で納得できなかったのだが、追い打ちをかけるように、(3)は決定的だった。ついに編集部に対する意見も許されなくなったのかと愕然とした。

 創刊前の準備ブログの時期、最初に掲載された私のデビュー記事は、8月15日に靖国神社を参拝したときのものだった。韓国発のメディアとしてあれこれ揶揄されていたオーマイニュースだったが、この記事が故意に修正されずそのまま掲載されたことは、私がオーマイニュースをひとまず信用するきっかけとなった。

 また、オーマイニュース自体を論じる記事や編集部に注文を付けるような記事も何度か投稿したが、トップ記事として掲載されたこともあるほどで、「たね」にされるようなことは一切なかった。他の市民記者の掲載記事を見ても、巷で悪く言われているほどオーマイニュースは「反日」「左翼」に傾いているわけではなく、努めて中立性を保とうとしていることが窺えた。

 それだけに、(1)(2)(3)の出来事には、本当にがっかりした。裏切られたような気持ちすらあった。もし、最低限自転車旅行記の連載だけは続けようという意志がなかったら、私はこの時点でオーマイニュースの記者登録から脱退していたかもしれない。

 ◇ ◇ ◇

 時は下って7月。勝手カフェにおける懇親会の場で、記事の選び方についての疑問を元木編集長にぶつけさせていただいたことがある。そのとき編集長は「(憲法改正に)賛成の記事は実際ほとんどないんだよ。あれば当然載せる」とお答えになった。

 時間的な都合もあってその場で再反論はしなかったが、私がこの場を借りて改めて問い掛けたいのは、オーマイニュース上で「ほとんどない」ことと、一般世論として「ほとんどない」かどうかは全く一致しないのではないかということだ。

 編集部も人間の集まりである以上、その好みや志向に沿って記事が選ばれるのはある程度やむをえないことであるし、既存のメディアを見ても一切の偏向性がないものはむしろ皆無といっていいだろう。ただ、懸念されるのは、その偏りの傾向があまりに顕著な場合、相対する意見を持っている人は、間違いなくオーマイニュースから遠ざかるだろうし、ハナから記者登録も控えるだろうということだ。

 創刊から1年も経たないうちに、編集部の考えに合った人たちしか記事の投稿をしなくなってしまったのだとすれば、それは市民メディアとして体をなしていないわけであり、大変に由々しき問題である。

 もうひとつ、最近のオーマイニュースは、編集部員を含めたプロのライターの方の記事が増えたように思えるが、その傾向も私は不満である。

 プロ記者が悪いというわけではないが、あくまで市民記者メディアを最大のウリにして創刊されたオーマイニュースである。トップ記事から順に見出しと記者名を追っていって、そこにプロの記事ばかりが並んでいたとしたら、それはオーマイ(私の)ではなく、オーヒズ(彼の)、あるいはオーハー(彼女の)ニュースではないか。

 また、これは私もそのひとりに含まれると思うが、一般市民記者の中にも、すでに何十本も記事が掲載され、常連となっている記者がいる。プロ記者と常連市民記者をあわせると、掲載記事の全てが占められているのではないかと思える日もあって、新たな市民記者が登場しているのだろうかと、その行く末が心配にもなってしまう。

 ◇ ◇ ◇

 かくして私のオーマイニュースに対する期待値は半減し、週に1回自分の旅行記を確認する以外は、あまり他の人の記事を読むこともなくなってしまっていたのだが、そんな私にも、市民記者編集委員創設の知らせが舞い込んできた。しかも、「不満分子」である私に編集委員への就任をお願いしたいとある。

(1)順番に週1回程度ずつ、紙面批評をしていただく。
(2)同様に、記事コンテンツ部門だけでなく、サービスまで含めたサイト批評をしていただく。
(3)週間市民記者賞選出のプロセスに関与していただく。
(4)編集委員の方たちのご意見を参集し、大きな企画のプロジェクトを立ち上げていただく。

 迷った。迷った理由は、上記のような編集委員の職務に興味が湧かなかったというよりは、ただ面倒臭かったからだ。少なくとも自転車旅行記だけは続けるつもりでいたし、下手に編集部相手に文句を連発して、嫌われ者になっても楽しくないではないか。

 しかし一方で、この市民記者編集委員という試みは、悪くないと思った。双方向性や中立性を模索した上での、編集部の新しい挑戦であると評価することができた。前向きに考えれば、間違いなくやりがいもあるだろう。

 創刊当時から私がオーマイニュースに期待しているのは、これが誰でも参加できる平等なメディアであるという点だ。

 テレビや新聞、インターネットなどメディアが多様化し、情報が溢れている現代だからこそ、プロのライターやジャーナリストではない、1人ひとりの市民が、自分の目で見て、自分の耳で聞き、自分の言葉で考えることは重要である。オーマイニュースはそんな一般市民が実体験を基に発信する情報交流の場として、大いに可能性を秘めていると思うのだ。

 2年目を迎えるオーマイニュースに、もう一度だけ、その期待をぶつけてみよう。

 改めて宣言するまでもないことかもしれないが、栄えある初代の市民記者編集委員として、私は編集部のイエスマンになるつもりはない。むしろ敢えて批判的な視点に立つことによって、まだよちよち歩きの、この市民メディアの発展に寄与できればと願っている。

 主役は編集部ではない。市民記者なのだ。
(2007年8月26日掲載)

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