表紙へ戻る
 



防衛省昇格を報じる海外のニュースサイト

意外に穏やかな中韓両国の反応




オーマイニュース掲載版はこちら

 1月9日、防衛庁が省に昇格した。私は年末年始の企画記事「2006年の5大ニュース」の中で、省昇格法案の制定を3位に取り上げた通り、戦後60年以上が経過したこの国にとって、省昇格は大きな出来事だと思っている。

 日本の主要政党やマスコミがどういう賛否の態度をとるかは概ね予想がついていたので、私はむしろ、このニュースが海外でどのように伝えられているかに注目してみた。

 以下は海外の主要なインターネットニュースサイトを調べた結果である。

 韓国の中央日報は、「日本の防衛省昇格に対する対策はあるのか」という題で、社説を書いていた。その論旨としては、まず日本の軍事大国化を懸念し、自衛隊の海外活動が幅広く自由になると説明し、憲法改正につながる動きがあると警戒するものである。

 ただ、話の結論としては、題名にも表れているとおり、矛先は日本政府ではなく、韓国政府に向けられていた。くしくも盧武鉉大統領が日本海を、従来韓国が主張している「東海」ではなく「平和の海」と呼ぼうと発言したことに対する反響が大きく、その問題と照らし合わせて、韓国政府に日本の動きに対する対策はあるのか、と投げかけていた。終始日本批判というわけではなく、むしろ韓国の内情に不満を示すという論調は、興味深い。

 次に中国の人民日報。こちらは外交部の定例会見の模様として、劉建超報道官の発言を伝えていた。「日本が平和発展の方向を堅持することは、日本自身の根本利益に合致し、この地域の平和・安定・発展にもプラスだ。日本政府の組織構成にどのような変化があろうと、われわれは日本側が引き続き、平和発展の方向に沿って発展していくことを希望する」とある。

 中国は猛反発するのではないかと思って読んでいくと、拍子抜けするほど意外な反応ではないだろうか。前後して、公明党の太田昭宏代表と会談した胡錦濤主席が来日に意欲を示したと報じられているが、中国政府として、これ以上日本を敵視する政策をとるよりは、友好関係の実をとりたい、そんな意図的な方向転換の気配が感じられる。

 イギリスのBBCでは客観的に事実関係を伝えている。日本政府は「省昇格によって治安環境の変化に対応できるようになる」と言っているが、依然平和憲法は戦争を行うことを禁じていると書き、安倍首相や久間防衛大臣の発言を載せていた。特に賛否の強い論調はなかった。日本関連では、安倍首相が訪欧するというニュースのほうが、むしろ大きく取り上げられていた感がある。

 アメリカのCNNは、私がサイトを調べた限り、アメリカの原潜と日本のタンカーが接触したニュースは報じられていたものの、防衛省昇格のニュースは見あたらなかった。

 最後に、意外と大きく扱っていたのは、カタールのアルジャジーラだ。イラク戦争の報道で名を馳せた中東のテレビ局であるが、日本が防衛庁を一人前の(巣立ちした)省に昇格させたという書き出しで、安倍首相の発言、並びに中国側の見解を並列で紹介している。また、安倍首相が初めての戦後生まれの首相であると書き、今回の出来事の背景として北朝鮮の核実験問題があることに言及していた。

 これは私の個人的感想であるが、思った以上に世界の関心および反応は小さかった。すでに日本の防衛費は世界第3位ともいわれ、その看板が庁であるのか省であるのかは、さしたる注目点ではないのかもしれない。そして興味深いのは、韓国や中国が一定の懸念を示しつつも、小泉前首相の靖国神社参拝のときのように大きな反発をしていないことである。北京市民やソウル市民が抗議のデモ行進をしたなどというニュースもまったく聞かない。

 安倍首相が、就任直後にまず訪問した効果なのかは分からないが、日本の戦後体制脱却に向けて、中韓両国が肯定こそしないまでも黙認の姿勢を見せたと解釈するのは、果たして誤った見方だろうか。
(2007年1月13日掲載)


先頭へ戻る
 
書庫一覧へ