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歴史の深さを感じた「中近東の土偶展」  三鷹市・中近東文化センター附属博物館にて



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 「中近東の土偶展」を見に行った。場所は東京都三鷹市にある中近東文化センター附属博物館だ。1979年に開館したという当館は、日本では珍しい中近東の歴史文化を専門的に研究し、かつその発掘成果を公開している施設である。

 日本人にとって中近東は遠い。石油と砂漠、あるいはキナ臭い戦争のイメージばかりが先行している地域ではないだろうか。土偶展は、夏休み期間ということもあり、子供を対象にした分かりやすい展示で、「中近東はどんなところか知っていますか?」と、まず親しみをもってもらうところから始めていた。

 土偶は人間の形を模した一種の人形であるが、その用途がよく分かっていないものも多いらしい。三つ編み姿の女性を表した土偶や、御守りとして使われていたのではないかといわれる女神像など、様々なものが展示されており、運がよければ、学芸員の方の案内を聞くこともできる。土偶の説明だけではなく、実際にイランやシリアの遺跡に発掘に行ったときの話や、現地の人々の生活習慣に関する話題まで、色々と織り交ぜて解説してもらえるので楽しい(曜日や時間は要確認)。

東京都三鷹市にある中近東文化センター附属博物館
【東京都三鷹市にある中近東文化センター附属博物館】

 土偶展は期間限定(9月3日まで)の企画展示だが、一方で常設展も見応えがある。旧石器時代からローマ時代や東西交流史を経てオスマン帝国まで、中近東の歴史を地域別に通史的に紹介しており、順を追って見ていくだけでも、十分に理解のできる内容となっている。

 日本の歴史教育は長いこと、日本史、東洋史、西洋史と、三分割されていた。中学や高校における世界史の授業も、教科書の約半分は西洋史、すなわちヨーロッパの歴史に割かれ、残りの大半は東洋史つまり中国史である。西洋と東洋の中間に位置し、シルクロード交易の中心として、あるいは天文学や化学の発達に大いに貢献した中近東の歴史は、残念ながら軽視されている。

 博物館の展示の中では、アルカリという言葉がアラビア語起源であることや、中国の影響を受けつつ独自の発展を遂げたペルシアの陶器文化についてなど、最近の研究成果も交えながら、丁寧に記述されている。世界史は決してヨーロッパばかりを中心に発展してきたのではなく、むしろ人類の長い歴史の中で、その牽引者は中近東でありイスラム文明であったことが感じとれる内容になっている。

 私は多くの中近東の国々を旅した経験がある。その中には現在内戦状態とも言われるイラクも含まれる。古代のイラクはメソポタミア文明の中心地であり、中世のバグダッドは当時世界最大の都市としてアラビアンナイトの舞台となった。中近東の中でもとりわけ高度な文明を育んできた国であり、彼らもまた、そのことを非常に強く誇りに思っている。

 館内では、ニムルド遺跡やハトラ遺跡など、イラクからの出土品も多く展示されていた。それらの豊かな歴史遺産が、今どのような状況下に置かれているのか、テレビや新聞で報じられることはほとんどない。

 中近東文化センター附属博物館では、特にそういった現代史に関すること、政治に関わるようなことには、ほとんど触れていない。ただ、自らは語ることのない土偶や陶器を展示し、その類稀なる歴史文化の深さを、私たちに教えてくれているのである。

 入館料は800円。場所は駅から遠くバスになるので少々不便だが、駐車場は無料。中近東に興味のある方も、あまりない方も、ぜひ足を運んでいただければと思う。

  ※参考リンク …… 中近東文化センター附属博物館
(2006年8月28日掲載)

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